祈りは永遠に。
08:仮面
「……じゃあ何? アンタはこの世界の人間じゃないっていうの?」
「うん。まあそうなるね。私はこの世界じゃないところで生まれた。それで、オールドラントでこれから起きること、起きたことのほとんどを知ってるの」
「それは……ユリアのような?」
「うーん、まあ……そうかもね」
カースロットの熱が冷めてから、私はシンクに全てを話した。その内容はジェイドたちに話したときよりも詳しく。
私は目的があって、ルークたちの――正規パーティーに同行しなかった。全てを知っているという点を鑑みればルークたちと一緒にいても不利になることはないだろう。
それでも私は、裏切った。
このままこちらに……六神将側にいれば、彼らと戦うことは避けられないだろう。だけども私は、六神将を失いたくない。
預言から外れた世界をさらに外そうと――いっそ、怖そうとさえしているのだ。
シンクはしばらく私の話を聞いていたが、やがて思い出したかのように口を開いた。
「アンタの実力はどんなもんなの? さっきイオンとナタリアを逃がしたんでしょ」
「私もあまり解らないの。譜術の素質はあるって言われたけど……どの音素と相性がいいかとかもまるっきり。あ、体力はあんまりないです」
「じゃあ、試してみる? ボクが相手してあげる。その結果によっては、アンタ普通に入団できるかもよ」
くつくつと彼は笑う。なんだか新しいおもちゃを見つけた子供みたいだ。……ああいや、シンクは実年齢二歳なわけだから実際子供なんだけども。
大人にならざるを得なかった子供。
仮面の下に抱える物が多すぎる子供。
「……やる。やらせてください!」
「そうこなくちゃ。ちょっと待ってて、えっと……」
シンクは机の引き出しから小さな譜業を取り出す。手のひらサイズのそれを私に握らせると、彼は私の隣に再び腰を下ろした。
「これは音素との相性を試す譜業。仕組みはよく解らないけど、ここに力を込めることで空気中の音素が集まってくるんだってさ。例えばボクがやると……」
「あ、緑色に光った」
「これは風の……第三音素だね。ボクに一番合う音素がこれってこと。もう一度やると色が変わる。二番目に合う音素が解るから」
「今度は黄色……これは第二音素だね?」
「そう、地属性。じゃあやってみて」
彼に言われるがまま、私は譜業に力を込める。するとちかちかとランプが点滅した。色は白。
「第六音素……光属性か。もう一度」
「あ、うん」
もう一回力を込めれば、今度は青く光った。これは第四音素、つまり水属性。さっきアニスと練習したのは火属性だったけど、相性がいい音素がこれらなら集める音素を変えるだけでバリエーションが作れるかもしれない。
ちらりと横のシンクを見る。仮面で表情は解らないけど、ちょっとは認めてくれているような気がした。シンクの動作だけで判断したけれど、彼の仮面の下で表情も変わったりしてるのかな?
「……ねえシンク、仮面外してもらえたりしない?」
「は? 何言ってんのアンタ、無理に決ま……って、るで、しょ……」
「でも私、シンクの素顔知ってるわけだし。別に問題はないかなー、と思うんですけど……」
だって、シンクはシンクだよ。イオンと同じ顔をしていようともきみは、他でもないシンクなんだよ。
そう言えば彼はやれやれという感じで溜息を吐いた。ちょっとした暇潰しのおもちゃが面倒な性格をしていて厄介だとでも思っているのかもしれない。
「……アンタ、変わってるね。イオンと同じ顔見たって面白くも何ともないのに」
言いながらもシンクは仮面に手をかけて、そのまま外した。明かされた素顔は確かにイオンと同じ顔立ち。
でも髪型も服装も違うし、私にはシンクにしか見えない。
「これで満足?」
「うん、とっても!」
そう返せば、彼はもう一度溜息を零して立ち上がる。譜業を机の引き出しに戻した彼の顔は、少しだけ赤くなっていた。
2015.12.15 柿村こけら
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