祈りは永遠に。

25:命令

「はうー! やっとケセドニアだよ!」
「流石に疲れましたね……」
「そうだな……って、あれ! ナタリアじゃないか?」
 ルークの指差した方を見れば、そこにはナタリアとガイ、それからティアがいた。三人もこちらに気付き、慌てて走り寄ってくる。
「どうしてここに!? 停戦は一体……」
「総大将のアルマンダイン伯爵が、大詠師モースとの会談のためにケセドニアへ向かったと聞いて……ルークたちと合流できるとは思っていませんでしたわ。ところで、その……、ですわよね?」
 ナタリアが首を傾げる。私はそれに頷き、彼女に頭を下げた。
「はい。現在は神託の盾騎士団所属、です。ヴァン謡将の指示でルークたちに同行を」
「兄さんの? というか、神託の盾騎士団に入ったのね……」
「そーそー。アニスちゃんもびっくり、何とは第五師団の副師団長!」
「ちょ、アニスあんまりそれ言わないでって……恥ずかしいから!」
 実力に見合ってない階級だという自覚はあるので尚更だ。
 というか私のことなんて後回しでいい。今重要なのはアルマンダイン将軍とモースを探すことだ。
 私たちはそのままケセドニアの中を移動する。二人の会談が行われているのは酒場の前の国境で、ナタリアが彼らを呼び止めると驚いた顔で彼女を見た。ルークたちはアクゼリュスで死んだと思われているので、まるで幽霊でも見たような顔をしている。
「アルマンダイン将軍、ルークです」
「生きて……おられたのか……!」
「アクゼリュスが消滅したのは、俺が――私が招いたことです。非難されるのはマルクトではなく、このルーク・フォン・ファブレただ一人!」
「此度の戦いが誤解から生じたものなら、一刻も早く正すべきではありませんか!」
「それに、戦場になっているルグニカ平野は、アクゼリュスと同じ崩落……消滅の危険があるんだ!」
 ルークとナタリアの訴えにアルマンダイン将軍は焦ったようにモースを見た。実際にアクゼリュス崩壊に立ち会った彼らの証言なら説得力があると思ったのだろう。しかし視線を向けた先がモースなのが悪かった。彼は毅然とした態度でナタリアの前に歩み出る。
「待たれよ、ご一同。偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ」
「無礼者! いかなるローレライ教団の大詠師といえども、私への侮辱は、キムラスカ・ランバルディア王国への侮辱となろうぞ!」
「私はかねてより、敬虔な信者から悲痛な懺悔を受けていた。曰くその男は、王妃のお側役と自分の間に生まれた女児を、恐れ多くも王女殿下とすり替えたというのだ」
「でたらめを言うな!」
「でたらめではない。ではあの者の髪と目の色を何とする。いにしえより、ランバルディア王家に連なる者は赤い髪と緑の目であった。しかしあの者の髪は金色。亡き王妃様は夜のような黒髪でございましたな。……この話は陛下にもお伝えした。しっかとした証拠の品も添えてな。バチカルに行けば、陛下はそなたを国を謀る滞在人としてお裁きになられましょう!」
 勝ち誇ったようにモースは言う。そしてアルマンダイン将軍を連れて去っていってしまった。残されたナタリアはというと、現実を受け止めきれずその場に崩れ落ちる。
「そんな……そんなはずありませんわ……」
「……。あなたは『こうなること』も知っていたのでしょう?」
「……ええ、まあ。でも言えなかったんです。……ナタリア」
 私は彼女の前に跪いて、その手を取る。ランバルディア弓術を極めたその手にはタコができていた。
 金色の髪と深緑の瞳。それが王家の者とは違う色だったとしても、何がおかしいというのだ。
「ナタリアのことは、誰よりもあなたの国民が知ってるよ」
「……ですが、私は……」
「今言えるのはこれだけ。……ここから先は、私が言っちゃダメなの。ナタリアが自分の目で見なくちゃいけないから」
 バチカル市民たちは彼女のことを敬愛している。百聞は一見に如かず、だ。
「……イオン様、いかがされますか?」
「……僕は一度、ダアトに戻ろうと思います」
「イオン様!? マジですか!? 帰国したら、総長がツリーを消すためにセフィロトの封印を開けって言ってきますよう!」
「そうなったら、アニスが助けに来てくれますよね」
「……ふへ?」
 ツインテールを揺らしながらアニスは首を傾げる。イオンはにっこり笑って、彼女の手を取って告げた。
「唱師アニス・タトリン。ただいまをもって、あなたを導師守護役から解任します」
「ちょっ、ちょっと待ってください! そんなの困りますぅ!」
 突然のことにアニスは驚いてぱすぱすとイオンのことを叩く。けれどイオンはゆっくり首を振り、アニスの手を受け止めた。
「ルークから片時も離れずお守りし、伝え聞いたことは後日必ずボクに報告してください」
「そ、それは解りましたけどぉ……ダアトまでお一人で戻られるって言うんですかぁ!?」
「いえ、それについては考えがありますよ。……
「あ、はい。なんでしょう、イオン様?」
「第五師団副師団長と兼任で構いません――導師守護役をお願いしてもいいですか?」
「……正気ですか、イオン様」
 ローレライ教団のトップである彼はにこりと笑う。その笑顔はシンクのものに当然だが似ていて、カースロットは効いてもいないのに逆らえないような雰囲気を醸し出していた。
「ええ。なんなら、アニスの後任、という形でも構いませんよ。他の導師守護役は皆ダアトで待機していますし……」
「それは導師命令ですか?」
「はい。導師イオンとして謡長に命じます」
 にこにこ笑顔を絶やさずに彼は告げる。やっぱり逆らえそうにない。
 ヴァンに頼まれたのはエンゲーブ住民の護衛と、それからルークたちの現状把握。やるべきことは済んでいるからもうダアトに戻ってもいいはずだ。
「……イオン。こちらからダアトに戻るまでの間、では駄目でしょうか」
「構いませんよ。戻れば他の導師守護役の方がいらっしゃいますし……本来のの仕事とは違ってきてしまいますから、仕方のないことですよね。わがままを言ってすみません」
「あ、いえ……こちらこそ、申し訳ありません……」
――……そう。じゃあこれから、謡長、何があってもボク優先に、ね。
 脳裏にリフレインするのはシンクの声だ。彼と交わしたあの約束を、私は破りたくない。
 例え相手が、導師イオンであろうとも。


2015.12.15 柿村こけら



Prev / Back / Next