祈りは永遠に。
33:弱点
「詠唱?」
「……ああ。恐らくは、だが。が完全に回復してから確認をするつもりだ」
「ボクがに、訓練なんて任せたから……」
「違うだろ。てめェのせいじゃねえ。……早くのところに行ってやれ」
「……うん」
――は詠唱破棄をすると、譜術が使えないのかもしれない。
帰ってくるなりアッシュにそう告げられた。がまた怪我したって。つい先日退院したばかりの医務室のベッド上にはいた。また腹を怪我したらしい。原因は先程アッシュから聞いた通り、譜術を放ち損なって兵士たちの武器が刺さってしまったという。
「」
「……あ。シンク、おかえりなさい」
「なんで笑ってんのさ。アンタ、また」
ボクが来たことに気付くと彼女は辛そうに上半身を起こす。読んでいた本をベッドサイドに置き、はにへら、とボクに笑ってみせた。
「こんな体勢でごめんね。あ、そうだ……さっき検査して解ったんだけど、私どうも怪我の回復が他人より遅いみたい」
「どういうこと?」
「普通の人の三倍は時間がかかるんだって。この間の――イオンを庇ったときの怪我も、そうだったみたいなの」
なんてことないように彼女は言うけど、笑い事じゃない。それはきっと体力とは関係ないんだろう。彼女はもともとこの世界の人間じゃない。いくら譜術が使えようと、それとこれとは別の話だ。生まれと育ちは変えられない。
さっきアッシュが言った詠唱破棄のことももしかしたらそれに関わっているのかもしれない。
一種の反動のようなもの。強力な譜術を使える代わりに、詠唱破棄ができない。うっかり失敗しようものなら無防備な状態になってしまう。
「シンク?」
「……ねえ。が治ったらちょっと確認することができた」
「何?」
こてんと首を傾げて彼女はボクを見る。ベッドの横に置かれた椅子を引っ張ってきてボクはそこに座り、冷たくなったの手を取った。
「詠唱破棄をしてしまったら#は譜術を使えないのかもしれない」
「……そうなんだ」
へえ、とは納得したように告げる。もっと驚くかと思ったけど意外とそんなことはないらしく、「詠唱破棄、ねえ」と呟いていた。
「代償なのかもね」
「……」
「全部を知ってるなんて都合がよすぎるもの。ちょっとくらいのハンデがなくっちゃ」
「アンタさぁ……」
ちょっとお気楽すぎるんじゃないの。なんで笑っていられるのさ。そう思ったけど声に出すことはなく、代わりにボクは溜息を一つ落とした。
「……ったく」
「っちょ、シンク?」
「まったく、アンタは……これ以上ボクに心配かけさせないでよね」
冷たい手を引いて、起き上がっていた身体をぎゅっと抱き締めた。はボクの名前を何回か呼んでくれたけど黙殺。一体いつからこんなに情を移してしまったのか。ただの駒だと思っていたはずなのに、何でボクがこんなことをしてるんだろう。
「シンクお腹! 私まだ怪我治ってませんから!!」
2015.12.15 柿村こけら
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