祈りは永遠に。
69:再会
鞄から鍵を出して、家のドアに差し込んだ。くるりと鍵を回すと扉が開く。いわゆる幽霊……のようなものなんだと思うけど、鍵とかドアとか触れるのか。今更ながら私の存在、謎すぎる。
「ただいまー」
誰もいない家の中に私の声がこだまする。私はローファーを脱いでスリッパに履き替えると階段を上り、自分の部屋のドアを開けた。
「あ、おかえり」
「ただい――えっ?」
まさか誰かの声が返ってくるとは思わなくて、私は薄っぺらいカバンをその場に落とした。
「何固まってんの。、遅かったね」
「え、なっ、なん、で」
白い上着。地味に露出したスパッツ。緑の髪。
ベッドの上に座る彼は。私の携帯待ち受け画面から抜け出して来たような彼は。
「ちょっと、?」
「えっ、ふあ、はい!?」
「幽霊でも見たみたいに驚かれると困るんだけど」
「いや幽霊は私の方――違う、待って、そうじゃなくて、」
待って、本当に待って。
私にとっての現実って、どっちだっけ? 混乱する頭を整理することもできず、シンクは立ち上がると私の腕を取った。
「やだ、もう待たない」
ぐい、と腕を引っ張られて、私はベッドに倒れ込む。
あれ、何これデジャヴ。
「」
「シンク、なの……?」
「たった二年でボクの顔忘れるくらいアンタはバカなの?」
「二年? 私、エルドラントで死んで――あ、そういやシンク大きくなった?」
体感的には寝て起きたような感じだし。いや、あそこで死んでるから正確には目覚めてはいないけれど。
背も伸びたし他にも変わった、と言って、シンクはぎゅっと私を抱き締める。私って触れられないし見ることもできないって感じの幽霊じゃなかったのか。
シンクはそんなこと気にもせずに私の背中に手を回した。
「っていうか、シンクどうして私の部屋にいるの」
「アンタが遅いから迎えにきてやったんだよ」
「で、でも――ここ、地球だよ?」
「チキュウ? ……よく解んないけど、ここはの世界なんでしょ? ボクはただ、ユリアに祈っただけ」
「ユリアに?」
「そう。アンタの声が聞こえたから……アンタが来られたなら、ボクが来られてもおかしくないでしょ?」
ニヤリとシンクは笑う。こういうとこ、変わってないなあ。少し大きくなったシンクの背に腕を回して抱き締め返す。……あったかい。
「ねえ、。ボク二年も我慢したんだけど」
「えっと、シンクさん?」
私を抱き締めたままのシンクが耳に息を吹きかける。彼はそのまま耳元に顔を埋め、ちゅ、と小さなリップ音を響かせた。
「……からキスして」
「っ、え……ふあ、っ」
左太腿が淡く光って熱を放つ。カースロット、この距離なら効果は抜群だろう。有無を言うこともできず、私はシンクの唇に自分のものを重ねた。くちゅり、水音が大して広くない部屋に響く。息が苦しくなっても、なかなかシンクは舌を抜いてくれなくて。結局口が離れたのは十数分後だった。
「しん、く」
「……謝らないからね」
「っ、」
「がボクたちを助けたことに何も文句言わないであげる。ねえ、」
「シンク?」
「ずっと――逢いたかった。ボクもルークもイオンも、みんなアンタを待ってた」
だから、さ。
ボクと一緒に……帰ってくれる?
シンクは私を更に強く抱き締めて、そう言った。
そんなの。
そんなの――答えは一つしか、ないじゃないか。
「私、まだシンクの副官で、イオンの導師守護役でいさせてもらえるかな?」
「イオンの方は置いておいて、ボクの副官はしかいないから大丈夫」
あんなのアニスで十分! そう言うシンクは少し妬いてるようにさえ見えた。そんな彼に私は触れるだけのキスを落とす。
「でも、どうやって帰るの?」
「アンタがヴァンを助けるために必死で練習してたでしょ? リバースデイ、だっけ。この部屋で十分だから譜陣を描いて――それから、これ」
シンクが服から譜業らしきものを取り出す。キューブ状のそれは見たことがないものだったが、意匠にどこはかとなくディストを感じた。
「これはディストがジェイドと手を組んで作った譜業。一時的に音素を作ることができる音機関だよ」
「ジェイドがディストと手組んだって方が驚きなんだけど」
「うん。のために作ってくれたからね。ただ、この譜業はまったく音素がないところでしか使えないんだって」
「じゃあ、オールドラントじゃ使えないんだ」
「そうなるね。フォミクリーを応用したとは聞いているけど……それじゃあ、やろっか」
床に敷いてあるカーペットを剥がして、そこにシンクが複雑な譜陣を描いた。その中心に譜業を置き、私とシンクは手を繋いで向かい合う。
「、宜しくね」
「うん。――崩壊の序曲を奏で、終焉にはその身を結い上げ給え!」
2015.12.15 柿村こけら
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