世界の果てでは雨が止む
30:謁見
「っ!」
「わ、ちょ、ちょっとエリーゼ?」
城の前に着くやいなや、エリーゼに抱きつかれた。
「わたし、に甘えてました……はわたしの味方って、自分で思ってて、」
『それでいいと思ってたんだよー!』
「……いいよ、エリーゼ。甘やかしたのは私し、私も同罪。それよりも仲直りで来て良かったね」
『レイアちょー怖かったけどね!』
「何よー!」
レイアがぐにぐにとティポの頬を引っ張る。どうやらちゃんと仲直り出来たみたいで安心した。
あの後宿屋で待機していたのだが、ミラが城に行くと言い出したと疲れた顔のジュードが私を呼びに来てくれたのだ。何でもユルゲンスさんが、ガイアス王がミラに会いたがっていると言ったらしい。
まさかマクスウェルの名がそこまで知られているとは、と思いつつも私たちはその誘いに乗った。謁見待ちの人たちを抜かすのは少々悪い気分だったけれど。
「お待ちください。王への謁見は、城の外で順番を待って頂くことになっております」
「ア・ジュール王が僕たちに会いたがっていると聞いたんですけど……」
「ミラ様ですか?」
「ああ、私だ」
兵士はミラを見て、それから槍をどけ道を開けてくれる。言われるままに直進すれば開けた場所に出て別の兵士に誘導された。
「あれ? ローエン、どうしたの」
「王との謁見にぬいぐるみを持っていくのもどうかと思いまして。ここにいる兵士の方に預かって頂くようエリーゼさんにお願いしていたのです」
エリーゼはこくんと頷き、兵士にティポを渡した。ティポの目が妖しく光る。これはローエンが何か企んだということだろう。
謁見の間に入る。そこにいたのはエリーゼの過去を知っていた大男、ジャオだった。玉座を挟んで反対側にいるのは全身黒ずくめの男性。
「イルベルト元参謀総長。お会い出来て光栄だ」
「ア・ジュールの黒き片翼。革命のウィンガル殿ですね」
四象刃のうち二人が出てくるなんて、何だか違和感がある。中央に座する男――ア・ジュール王ガイアスなら、護衛なんて必要ないと思うのだが。
「お前がア・ジュール王か」
「いかにも。我が字はア・ジュール王ガイアス。よく来たな、マクスウェル」
ミラとガイアスの視線が絡み合う。一国の王の迫力は流石としか言えない。精霊の主たるミラと同じくらいの圧倒的な力強さを持っている。
「……お前たちは陛下に謁見を申し出たそうだが、話を聞かせてもらおうか」
「あ、はい」
言われて、ジュードが一歩進み出る。謁見を提案したのは他でもないジュードだ。ある程度考えは纏めてあるのだろう。
「ア・ジュールで作られた増霊極は、既にラ・シュガルに渡っていると思われます。もし両国で戦争が始まれば、取り返しのつかない事態になってしまうんです。だから……」
ええと、と言い淀んだジュードを見て、レイアが続ける。こういうとき彼女はすぐに動いてくれるから、行き詰まらなくて済む。
「わたしたち、ラ・シュガルの兵器を壊そうと思ってるんです! それがなくなれば、ラ・シュガル王は戦争が始められなくなるんじゃないかって。だから……協力とか……してもらえませんか?」
二人の意見を聞いたガイアス王は、眉を動かすこともなく視線をミラへと移した。興味がないと言われたも同義だ。戦争という言葉に反応すらしなかった。
それからガイアス王はミラから研究所の件を言及されたが、そちらにも無反応だった。
逆にガイアス王からジュードに投げ掛けられたのは、そのどちらとも関係のなさそうな質問だった。「民の幸せとは何か」という、王様らしい質問。
「己の考えを持ち、選び、生きること」
「……そうだね、僕もそう思う」
ジュードに代わって応えたミラを、ガイアス王は鼻で笑った。
「王とは民に生きる道を指し示すべき存在。それこそが俺の進む道、俺の義務だ」
だからと言って、生体実験はよろしくないと思うんだけどな……。民の幸せ。難しいことだが、「自分を諦めないこと」が幸せじゃないかというのが私の持論だ。
ガイアス王の言葉は重い空気となって私たちにのし掛かる。そしてその空気を破ったのもまた、ガイアス王だった。
「お前たちをここに呼んだ理由を、単刀直入に話そう。マクスウェル――ラ・シュガルの研究所から『カギ』を奪ったな。それをこちらに渡せ!」
2015.06.14 柿村こけら
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