世界の果てでは雨が止む

35:傭兵

 ガンダラ要塞とイル・ファンとを繋ぐバルナウル街道に私たちは降り立った。ワイバーンたちに餌をやると、それを食べてから彼らは空の向こうへ消えていく。
 冷静は夜域に変化し、幻想的な雰囲気を放っていた。が、永遠の夜の街であるイル・ファンからは叫び声や馬車の音が聞こえてくる。

「……急いだ方がいいみたいだな」
 街道を走り抜け到着したイル・ファンは酷い有様だった。あちこちから火が出、濃紺の空を照らし出している。
「酷い……誰がこんなこと」
「とりあえず街の中を調べてみよう。僕とであっちを、アルヴィンとレイアで奥を。エリーゼはミラとローエンと一緒に居住区を見てきて」
「承知しました。集合は?」
「十五分後にここで」
「了解!」


 ジュードの指示通りに散開する。それにしても酷い。ア・ジュールが直接攻めてきた訳ではないだろうけれど。
「あれ? ここって……」
「……うん。僕の通ってた学校」
 聞き込みをしながら通りかかったのはタリム医学校だ。怪我人が次々と運び入れられて混雑している。
 治癒術を掛けながら指示が飛び交うそこを、ジュードは立ち止まってみていた。そんなことしてる場合じゃないのは彼が一番解っているだろう。今私たちがやらなくてはならないことはクルスニクの槍を壊し、ナハティガルを止めること。

「ジュード」
「っ、ごめん!」
「行こう。またいつでも来られるよ。だってジュードはここの生徒なんだから」
「あ……」
「前も言ったけどさ。ローエンのコネでも何でも使えば復学くらい出来るって。だから、先を急ごう?」
「……そう、だね。ありがとう、

 それから怪我人の中でも話が出来そうな人に話を聞いたが、解ったのは研究所が突然爆発したということだけだった。
「槍」は研究所にあったはず。それなのにあそこが爆発? それはどう考えてもおかしい。だってあれはラ・シュガルの切り札なのだから。
 一度集合して全員で研究所に向かうことにして、私たちはタリム医学校の前を立ち去った。

 人ごみを避けながら前へと進む。逃げようとする人たちの間を縫って歩くものの、普段のイル・ファンでは考えられない量の人に押し戻されてしまう。
、こっち!」
「ありがとう」
 ジュードに手を取られ歩き出す。私もよくイル・ファンを訪れていたけれど、住民である彼の方が詳しいのは当然か。


「……ねえ、はさ」
「うん?」
「槍を壊したらどうするの?」
「どうするも……私は傭兵だから。リーゼ・マクシア中を歩き回るだけだよ。前と同じように……何も変わらない」
「そうだよね。……あの、さ。一段落したら、僕も少しだけ着いて行ってもいい?」

――まただ。
 騒がしい街の中だというのに、ジュードの声だけがはっきりと聞こえる。闘技場のときと一緒で。

「戦ったりするんじゃなくて……世界を見て回りたいと思ったんだ。と一緒に」
「……いいよ。一緒に行こう」
「ありがとう、
 にこり、と彼は笑う。
 こんなの戯言だ。クルスニクの槍は壊させないし、私はリーゼ・マクシアに残ったりなんかしない。帰るのだ。見たこともない故郷へ。

 集合場所にはローエンたちが先に着いていた。それからすぐにアルヴィンたちも合流する。結局得られた情報は私たちと同じ物しかなくて、とにもかくにも研究所を目指すことになった。




2015.06.14 柿村こけら



Prev / Back / Next