世界の果てでは雨が止む
53:予感
結局昨日はロクに眠れなかった。寝たと思ったのにすぐ目を覚ましてしまうことの繰り返しで、そのせいで朝見た自分の顔は酷い有様である。レイアが心配して治癒術を掛けてくれたけど気休め程度だった。
「、本当に平気?」
「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」
ならいいんだけど、と申し訳なさそうにレイアは言う。でも悪いのは私だし彼女が気に病む必要はないのに、なんて思ったところでガイアスが現れた。
「ア・ジュール、並びにラ・シュガルの同胞たちよ! かつて俺たちはリーゼ・マクシアの覇権を争い、互いに剣を向けた。だが、これから始まる戦いは今までとは一線を画するものだ」
整列している兵士は二国の兵だ。この間まで争っていた兵士たちを纏め上げるなんて、ガイアスの手腕は流石としか言えない。ガイアスの演説を聞いた兵士たちの士気は見る見るうちに上がっていく。ガイアスが傍らのウィンガルに船を出せと指示した瞬間、伝令管からプレザの声が響いた。
『リーゼ・マクシア全域に高出力魔法陣の展開を感知……回避不能! 来ます!』
「魔法陣だって!?」
ジルニトラのある方角から光が放たれた。クルスニクの槍がまた使われたのだろう。直後、私たちを襲う重い圧力。身体から抜き取れるだけのマナを奪う気だ。そしてそれをマナが枯渇しているエレンピオスに送る。リーゼ・マクシアの人からすればおじさんは酷い人だけれど、実態さえ隠してしまえばエレンピオスでは救世主になれる。あちらに戻ったときのことまで考えておじさんはこの道を選んだ。全部計算済み。
魔法陣の展開はなかなか終わらない。このままこうしていても仕方ないと思ったのか、ガイアスがプレザに出航するように告げて船は空へと浮かぶ。マナ搾取に耐えながらも雲の上まで上ってしまえばもう魔法陣の効果はないようだった。
「うーん……」
「頭……痛いです……」
ふらふらと立ち上がるエリーゼはやはりマナを大量に溜めているからさっきの一撃もかなり効いたのだろ。
「大丈夫? 医務室で見てもらおうか」
『そうする〜』
ティポまですっかりやられてしまったらしい。ジュードとエリーゼが戦艦の奥へと消えていくのを尻目に、私はデッキの方へと歩き出す。澄んだ青空は私の好きなイル・ファンの空とは真反対だ。
「」
「……アルヴィン」
風を受けていた私に声を掛けてきたのは案の定アルヴィンだった。その目は昨日と変わっていない。私を責めるような瞳。
「さっきので解っただろ。ジランドは異界炉計画を遂行するつもりだぜ」
「……解ってるよ」
ジランドおじさんにとってリーゼ・マクシアは植民地に等しいものなのかもしれない。それでもやっぱり私の気持ちは変わらないのだ。エレンピオスに帰りたいという思いだけは。
しばらく私もアルヴィンも口を開かずに、ただ空を眺めていた。お互いに何を言うべきか迷っていたというのもあるだろう。
やがて再び声が聞こえてきて、プレザがジルニトラを捕捉したと告げた。
「! アルヴィン!」
「ジュード」
「集合だって。何でもあっちも艦隊を集結させて……うわっ!?」
「何!?」
ジルニトラのある場所から光が放たれた。再び断界殻の割れる音。
「今度は船、入ってこないみたいだね」
「これまでに集めたマナをエレンピオスに送ったんだろうよ」
「じゃあ、アルヴィンの考えは正しかったってこと……?」
「……最悪な現実だけは、嘘にならねえってのが皮肉だよな」
船の揺れが収まったので、私たちはガイアスの方へ戻った。プレザも突入に備えてこちらに加わっている。
「艦橋! 聞こえるか! このまま船を急降下させてジルニトラに突っ込ませろ!」
「えっ!?」
艦橋にいる兵士から躊躇いの声が聞こえる。しかしガイアスの命には背けなかったのか、船は急に速度を上げた。衝撃に備えて手当たり次第近くのものに掴まる。しかし拓けた場所なので落ちそうになる兵士もいた。やがて、大きな音。こちらがジルニトラに突っ込んだのだ。
攻め込もうとする私たちをエレンピオス兵が叩き落とそうとする。いつの間にかジュードの傍にミュゼが現れ、その指先から青黒い球体を放った。
「もうっ! ごちゃごちゃとうるさい!」
球体が次々に兵を押し潰していく。ガイアスでさえそれには驚いたようで、口を開けてミュゼを見つめていた。
ひとしきり攻撃を加えた彼女はふう、と一息吐くと、ここは自分がやるからとジュードに告げた。ジュードもまだ彼女に完全に慣れた訳ではないようだが、それでも強さは認めている。一足先にジルニトラへ飛び移ったミラに続いて、私たちも本拠に乗り込んだ。
2015.06.21 柿村こけら
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