DCnn
女子高生探偵と女子高生狙撃手の小咄
私は女子高生狙撃手、! アメリカで組織によるテロ事件に巻き込まれて両親を亡くし、赤井さんに引き取られ狙撃の腕を叩き込まれ、なんやかんやあって真純と付き合い始めて毎日熱い夜を過ごして――
「あ痛っ!?」
「何やってんだよ、初っ端から」
「だからって後ろからサッカーボールぶつけることはなくない? ほら、劇場版の冒頭で工藤くんがいつもやってるやつあるでしょ。せっかくだからあれのパロディをしようと思ったわけよ」
地の文を早々に邪魔してきた小学生は呆れた顔で「アホらしー」と言い捨てると、そのまま私の隣に腰かけた。可愛くない小学生め。まあ中身は小学生じゃないんだけど。
さて、改めて自己紹介。
私の名前は。秀一さんに狙撃を教え込まれ、復讐のために黒の組織と対立することを選んだが弱い女子高生だ。秀一さん経由で出会った真純に恋をして、今は恋人として同居している。でも、コナンくんの正体や組織のこと、秀一さんが生きていることなんかを真純が知らないように上手いこと立ち回っているセコい女だ。
「で、お前の彼女はどうしたんだよ」
「いやー、そこのレストランで殺人事件が起きたから真純がサクッと解決したんだけど、一応参考人ってことで今高木刑事とお話中なんだよね」
「オメーらも負けず劣らずの巻き込まれ体質だな」
死神扱いされる小学生に憐まれた。
いやいやいや。コナンくんに比べれば私たちはまだマシな方だって。まあ、引越し初日にホテルから他殺体が落ちてきたりしたけども。
で、まあ真純の事情聴取が終わるまでここで待っててと言われたので大人しくタピオカ飲んで待ってるところなのだ。そう告げれば、歩美ちゃんたちと遊んできた帰りらしいコナンくんは「へー」とつまらなさそうに告げる。
「まったくコナンくんは。私結構きみに貸しがあるんだから、もうちょっと乗ってくれてもよくない?」
「それはそれ、これはこれ。つーかオメーの話ってどうせ惚気だろ。聞き飽きたっつの」
「自分だって蘭ちゃんにずーっとホームズの話してるんだしいいじゃん」
そう言い返せばコナンくんはうぐ、と黙った。彼の正体を知っているチーム――まあこの場合は私と服部くんのことなのだけれど――で集まると、大抵惚気合戦になる。最終的に服部くん早く告白しろ、で終わるけど。
閑話休題。
真純が戻ってくるまではまだ時間ありそうだし、普通に雑談でもすることにしよう。
「コナンくん、夏休みは何かするの?」
「はぁ? 何だよ今更」
「雑談だよ雑談。私はねー、真純とプール行く予定なんだけど」
「じゃあそのプール、確実に事件が起きて数日立ち入り禁止になるな」
「アッハッハッハ、東都タワーとベルツリーを壊した男は格が違うわ」
……やめようこの話題。
どこに行ったって事件に遭うのは探偵の性みたいなもんだ。工藤くんや服部くんには一歩劣るかもしれないが、真純だってきちんと「女子高生探偵」なのである。探偵は起きた事件を解決するのが仕事である以上、事件の方はきっと探偵に引き寄せられるのだ。
ただ、言い方が悪いけれど……その辺で起きた適当な事件を真純が解決する分には何でもいい。痴情のもつれだとか、貸した金を返さないだとか。そんな事件なら真純が関わっても構わない、と思う。少なくとも彼女が事件解決を望んでいるのなら、その事件は真純の手で解決されるべきだ。
けれど組織の事件は違う。
真純はあくまで境界線の向こう側、安全な世界で生きているべき人間だ。母はメアリー・世良で兄は赤井秀一だけど、彼女自身は一般人。真純が組織と関わることを私を含めた誰もが望んでいないし、むしろ絶対に関わらせないと決め込んでいる。だからメアリーはベルモットのことを真純に教えないし、秀一さんは生きていることを真純に教えない。私も、本当はか弱い女の子じゃなくて狙撃手であるということを教えていない。
「……真純を守るためだったら、世界だって灼けるよ」
「ンだよ、突然」
「可能性の話。……もし組織が、真純を捕捉したら。私は真純を守るために誰だろうと敵に回すよ。基本的に私は真純の前では撃たないって決めてるけど、それを曲げることもあるかもね」
「……そうだな。組織の奴ら、一般人を巻き込むことに躊躇しねえからな」
コナンくんは私よりも組織と対峙している。さっき言った東都タワーだって話に聞いただけだが、ヘリコプターに搭載された機関銃で上層階丸ごと撃ち抜かれたらしい。それから、私も関わった東都水族館観覧車の脱輪事件。あれだって、中にいるキュラソーを殺すためだけに観覧車をボコボコに撃ち抜いたのだ。とてもじゃないが、理性がある敵ならそんなことしないだろつ。
「何だよ。もうすぐWSGが開幕するから、組織が何かしてくるとでも思ってんのか?」
「ああいう大きいイベント、組織は大好きでしょ。……ジェイムズやジョディも気にかけてる。この流れでちゃんとWSGを出してきたってことは、コナンくんも警戒してるんでしょ?」
「……」
少年は押し黙る。
WSG――ワールド・スポーツ・ゲームスは、世界最大のスポーツの祭典だ。それが遂に今年、日本で開催される。観光客が増加するだけではなく、スポーツ選手を含めた各国の著名人が日本を訪れるわけだから、組織や似たような危険グループはここを狙ってくる可能性は高い。「はくちょう」も人類としては大きな一歩だったけれど、あれは大統領やら何やらが来日していたわけでもなく、国民も見守る程度で済んだ(直撃を回避させた私たちとしては、だいぶ疲れたけれど……)。
「何かあったら協力してよね、コナンくん」
「オメーもな、。狙撃頼んだぞ」
はは、と小学生らしからぬ笑いを見せたコナンくんが拳を突き出してくる。私も拳を作って、コツン、とそれにぶつけてやった。共同戦線、継続中だ。
「あ――っ!!」
そんな私たちを見て大きな声が上がる。走ってきた女の子、というか言わずもがな真純は、「ずるい!」と言いながら私とコナンくんを二人まとめて抱き締めた。むぎゅっ。
「なんでボクのいないところでイチャついてるんだよぉ〜!!」
「真純、それどっちに対する嫉妬?」
「どっちも!!!!」
彼女としては複雑だが真純が可愛いのでオールオッケー、オールクリアです。
ぷくりと頬を膨らませる真純の頭をヨスヨスと撫でる。事件を解決したばかりの名探偵は、それで、と言いながら話を戻した。
「何の話してたのさ?」
「夏休みどうするの? って。あとWSGの話とか」
「あー、そっかもう始まるんだっけ。コナン君はやっぱりサッカー観に行くのか?」
「うん、そうなんだ。園子姉ちゃんがチケット取ってくれて……世良の姉ちゃんは姉ちゃんと一緒に観に行くの?」
工藤新一から江戸川コナンに切り替えた少年は、しれっと猫を被ってみせた。サッカーが大好きでちょっと頭の切れる小学一年生の振りをする彼は、幼気な笑顔を真純に向けている。
「生憎チケットが取れなくてさ。テレビで応援するつもりさ」
「まあ、コナンくんほどスポーツ好きなわけでもないしねー」
本当はメアリーを一人にしたくないからとチケットの申込をしなかったのだが、それは黙っておこう。実際彼や哀ちゃんのように好きな選手がいるわけでもないし、正直そんなに興味がない。もちろん真純が行きたいと言えば私は付き合うけれど、あくまでデートの一環として捉えてしまうと思う。……なんて、きっとコナンくんからすれば「有り得ないこと」なんだろうが。
やー、でも私運動神経あんまり良くないし。ライフル撃つから筋トレはしてるけど、それだって仕方なく、だ。
「ていうか、もうだいぶ遅いけど……家まで送って行こうか?」
「ううん、平気! すぐ帰るから〜」
「とか言ってまた誘拐されないでよ?」
「平気だってば! じゃーね、二人とも!」
会話を打ち切ってコナンくんはスケボーに乗り、そのまま道の向こうへ消えてしまった。残された私たちはお互いの顔をちらりと見て、それからどちらからともなく手を繋ぐ。じわりと暑い夏の空気の中、私は真純の顔をチラリと見た。
「汗かいちゃったね。帰ったらシャワー浴びようか」
「……うん」
スポーツより真純を見ている方が楽しいな、なんて思いながら帰路に着く。長いこと泊まり込んでいるホテルのドアを開ければ、そこに少女の姿が――なかった。
特に何も聞いていない。私たちがいないにのにどこかに出かけるわけもないんだけど、と二人して首を傾げる。しかし真純がスマホを取り出してメッセージを確認すれば、メアリーから「秀吉のところに行ってくる」という連絡が入っていた。由美さんがどうのこうの言ってたから、何か話すことでもあったんだろうか。
思いもよらぬ二人きりの時間がやってくる。
「えーっと……」
「とりあえず、シャワー浴びてから考える?」
「う、うん」
僅かに走る緊張感。真純が先に風呂場に向かったのを見て、棚からタオルとパジャマとを取り出した。それから昼間に街で買ったものを開封してまとめて風呂場に持っていく。ホテルの狭いバスタブにお湯を溜め始めた彼女は、後から入ってきた私を見ても特に何も言わない。こうして二人でお風呂に入るのなんて日常茶飯事だからだ。
「さっき買ったバスボム、持ってきたよ。使おうか」
「うん」
服を脱ぐついでにバスボムのラッピングを剥ぎ、真純の入る浴槽に身を沈める。真っ赤な薔薇の花びらが埋め込まれたバスボムは、お湯に溶け始めると同時にシュワシュワと泡を上げ始めた。ゆっくりとお湯の上に薔薇の花びらが広がっていく。
ふわりと漂う香りを嗅ぎながらお湯を掬えば、ちゃぷんと音が立った。浴室の湿気で髪がぺったりとした真純にそれを軽くかけてやれば、仕返しとばかりに手で作った水鉄砲でお湯が飛ばされる。こうやって遊んでる分にはうっかり人が死んだりしなくて良……いやいや。もう泊まってるホテルで三回くらい事件起きてたわ。今この瞬間に上の階で殺人事件が起きててもおかしくない街、それが爆発を春の季語と言い張る米花町である。
「……真純」
「わ、どうしたのさ」
「イチャつけるときにイチャついておこうね」
ちゃぷんとお湯を揺らし、真純の背中に腕を回す。つるつるの肌が触れ合って滑るより先に唇を奪った。湿度のせいで湿った唇を逃さないようにぱくりと食んで、舌で口の中を蹂躙する。真純は誰より強い女の子だけど、こうしてるときだけは別だ。癖っ毛を抑えるように頭に手を回して、ふかくふかく口付ける。薔薇の香りなんかより甘ったるい。
「ん、っ……ふ、ぁ……」
「はっ……ん、真純……っ」
ちゅ、ちゅ、というリップ音に混ざってお湯が音を立てる。元々風呂に入るというより汗を流すのが目的だったから構わないんだけど、このまま最後までここでやったら逆上せるかな、夏だし。
最後にぺろっと舌の裏を舐めてキスを打ち止める。浅い呼吸を繰り返す真純のメロンソーダの瞳はもうゆるんでいたけれど、私はパッと手を離して浴槽から出た。薔薇の花びらがぺたりとカーテンに貼り付く。
「先上がってる。すぐ来てね」
「……うん」
ま、どうせ汗かくことに変わりはないんだし。さっさと水気を拭き取って浴室を出る。真純が出る前に髪乾かしちゃわないとだ。
お揃いの部屋着に袖を通してドレッサーに座りドライヤーを当てているうちに真純が出てくる。カチリとスイッチを切って振り向けば、Tシャツの裾を握ったままの真純が顔を赤くしてこちらを睨んでいる。
「どしたの、逆上せた?」
「逆上せてない! じゃなくて……何だよあの下着、いつ用意したんだ!?」
「え、さっき買ったやつ」
真っ赤な顔でそう言ってくる真純の手には何もない。どうやら何だかんだ言いながらも私が出しておいた下着を着けたらしかった。
さっきレストランで事件に遭遇する前にランジェリーショップで買った上下揃いの下着は、真純の慎ましやかな胸を守るのにちょうどいいサイズだった。流石にブラはしてくれてるけどいつもスポブラなのでたまにはと思った次第である。あと単純にフリフリの可愛い下着着けてる真純を見たかったし。
「文句言いながらも着けてくれるところが可愛いよね〜」
「だ、だって……着ないで出てくるわけにはいかないし……」
「ハハッ、襲うぞ」
「えっ」
「いやまあ本当に今から抱くけど。でもその前に髪乾かすよ。夏風邪引いたらシャレにならないんだから」
言いながら真純をドレッサーの前に座らせ、さっきまで使っていだドライヤーを髪に当てる。オーバーサイズのTシャツの隙間から僅かに見えたのは水色のストラップ。首筋に噛み付いてやりたい気持ちを必死に抑え込む。メインディッシュから口を付けるわけにはいかない。
短い髪はあっという間に乾いてしまい、真純の肩からタオルを外す。私の分と合わせて風呂に放り込んですぐ、私は真純の手首を掴むと自重を利用してベッドに彼女を押し倒した。お揃いの部屋着には申し訳ないが退場して頂くことにする。色違いのTシャツを脱ぎ捨ててから真純のそれも脱がせた。少し割れた腹筋の上、ぺたりと平たい胸をフリルとレースが覆っている。「シンデレラバストの貴女に」と書かれたポップが飾られていたその下着は天使の羽のモチーフが付いた細いリボンが繋がっていて、真純の薄い肌を僅かに潰していた。
「こんな可愛い下着、似合わなくないか?」
「真純以上に似合う女なんていないわよ」
冗談じゃなく本気で、そう思う。
むしろボーイッシュな真純がこんなに可愛い下着を着ているという事実に興奮しかしない。うっかり他の人間に見せたりはしたくないな。世界が真純の可愛さに気付いてしまう。真純はかっこいい女の子、のままでいい。真純の可愛いところや弱いところを知っていていいのは私だけだ。誰にも渡したくない、私だけの女の子。
そっと手を伸ばして、下着の上から小さな胸を揉む。決して薄い生地ではないがこうして触れれば長らく私に触れられてきたそこが反応しないわけがない。ぴくんと真純の身体が揺れる。弱々しい視線に思わず舌舐めずりをしてしまった。今すぐ頭から食べてやりたい。
……でも、まだ始まったばかりだ。
代わりにキスを贈って、やわやわと胸に這わせた指を動かしてやる。
「っ、ん……ふ、ぁ……っ、は……」
「あっ、は、ぁっ……ちゅ、っ……ん、んんっ! あ、ぅ……ッ、」
「……は、可愛いよ真純」
呼吸をするついでに名前を呼ぶ。甘ったるい声を零し始めた真純の左胸が、トクンと脈打った。
あー、可愛い。愛してるよ、真純!
2023.02.04 柿村こけら
2020年8月に出したコピー本でした。お手に取ってくださったかた、ありがとうございました!(緋色公開前だったので微妙にWSGの設定が違う)
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