ステアリングウィズレイン

13:不純ろ過装置

「ぐああああ……」
 お腹が猛烈に痛い。
 月に一度のあの日が今月もきてしまった。本当に痛い。マジで痛い。痛すぎて気絶しそう。シナ先生に相談したけど、これは個人差があるということで……対処法は「ゆっくり休んでいる」ことだけだという。一応伊作先輩のところで痛み止めはもらってきたけど、それでも精神的に辛くて苦しい。
 流石にこの体調でいけどんマラソンに参加したら死ぬと判断し(あと、うっかり倒れたときに滝夜叉丸たちに女だとバレるかもしれない)、今日はお休みをいただいた。無理は禁物。雷蔵からも「ちゃんと休むこと」って釘を刺されているしね。
 部屋に戻って寝ようかと思ったけど、その前に今日はもう寝ちゃうことを仙蔵先輩に伝えておこうと思って私は作法室に向かった。急に委員会の予定が入っても参加できないからだ。
「仙蔵せんぱ〜い……」
 作法室に入ると、そこにはちょうど仙蔵先輩と喜八郎の姿があった。今日は活動日ではないが、作法室に置かれている兵法書を読みに来ていたらしい。仙蔵先輩は顔を上げると、美しいサラストを揺らしながらこちらに視線を投げ、口を開いた。
「なんだ、月のものの日ならさっさと寝て休め。伊作のところで薬は貰ったか?」
 豪速球が投げ込まれ、私と言えど処理ができなくなる。え? 今なんて言ったこの先輩。え?
「え、ちょ、仙蔵先ぱ、何を、」
 何も考えられず、脳直で言葉が溢れ出す。わたわたしている私をよそに、喜八郎はむすっと唇を突き出すと、傍らの先輩に怪訝そうな視線を向けた。
「せんぱぁい、それってセクハラですよお」
「む。いかんなつい思ったことが」
「先輩はそんなだから顔はいいのにくのたまに嫌われるんです~」
「喜八郎、お前な……」
「ちょっと仙蔵先輩! ストップストップ!」
 ん? と首を傾げながら先輩はようやく喜八郎との会話を中断してこちらを見た。さも当然のように会話を始められたがちょっと待てどういうことだ。こっちが話についていけない。
 月のもの。それは文字通り、月に一度私を襲う激痛のことだ。女性にしかないそれを「ある」ものとして喋っている先輩……え、まさか先輩も女だったとか? いやいやいや。知ってる知ってる、ちゃんと男性です。
「ちょっと待ても何も、だってお前女だろう? なあ喜八郎」
「ですです~あっ、大丈夫ですよお、先輩ちゃんと隠し通せてますからあ」
「二人の会話を聞く限り隠せてないよね!?」
 知られていた。いや、気付かれていた。いつから? どうして? ぐるぐると疑問が頭の中で跳ね回る。……一応学園長先生との約束は「バレたら退学、ただし信頼が置ける者には話してもいい」ということなので、二人が知っていても……まあ、同じ委員会のよしみだし、問題はないと思うけど。
「安心しろ。私や喜八郎は気付いているが、学園の生徒のほとんどはお前が女だということに気付いてはいない。理由があって隠している、ということは私も喜八郎も察している」
「そ、そうですか……で、先輩……あ、あの、いつから?」
 そう問えば、彼はふむ、と顎に手を当てる。
「お前をこの部屋に初めて呼んだときからだな」
「入学からじゃねえか!!」
 思わず畳を殴ってしまった。
 それくらい許してほしい。ていうかこの人、よく四年も黙ってたな! ていうか、二年生の仙蔵先輩が気付いたんだったらもしかして先代や先々代の委員長たちも気付いていたりしませんか!?
 その場に倒れ込んだ私のところに、またもや喜八郎がのそのそとやってくる。喜八郎はいつもみたいに私の手をきゅっと握ると、もう片方の手で背中をさすってくれた。
「ちなみに僕はこの前の実習のときです〜。先輩やっこいから、女の子なんだなーって思いましたあ」
「うぅ……仙蔵先輩はともかく、喜八郎にまで気付かれるなんて……」
「まあそう言うな。私も喜八郎も勘のいい方だから仕方あるまい。それにあれだ、鉢屋たちも知っているんだろ、お前のこと」
「そりゃまあ、そうなんですけど」
「お前自身別段慌てていないあたり、私たちにバレる分にはそこまで脅威でもないと見た。で? どうせなら本当のことを教えてはくれないか」
 仙蔵先輩はにこにこと笑う。笑顔で言っているけれど「いいから言え」と顔に書いてある。まあどちらにせよ、バレているなら隠す必要もない。事情を知っておいてもらって損はないし(同情されたいわけではないけど!)。
「私の本当の名前は、といいます。戦で死んだ双子の弟の代わりにこの学園に入学して――」
 はちたちに話したことと同じ内容を滔々と語る。実を言うと、遅かれ早かれ無事に卒業できたら先輩には話すつもりでいた。それがほんの二年早まっただけ……ということにしておこう。まあ喜八郎は予想外だったけど!
 話し終えて、仙蔵先輩はふむ、と深く頷いた。
「そういう経緯だったのか。……まあ、安心しろ。私とて優秀な後輩を退学させたいとは微塵も思っていない」
「僕もです~。先輩と一緒にトラップ仕掛けられなくなるのは嫌ですよお」
「先輩……喜八郎……」
「安心しろ、でいるときはちゃんととして扱ってやるさ」
 仙蔵先輩がくしゃくしゃと私の頭を撫でる。喜八郎はいつものようにぎゅっと抱き着いてきた。二人分の温もりを感じて安心するのは、私が二人のことを信頼している証だ。
 私は喜八郎のふわふわした髪を梳く。しばらくそうした後、私は痛む腹を抑えながら自分の部屋へと戻ることにした。



2025.03.24 柿村こけら


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