祈りは永遠に。
14:犠牲
「ま、間に合った……よね!?」
シェリダン港に火の手は上がっていないから、きっと大丈夫なはず……! もうルークたちがい組とめ組のみんなに仕事を頼んではいるはずだが、完成はしてるんだろうかと思いながらも私はシェリダンの街を歩く。ここに来るのは初めてだ。ルークたちに同行していない分、行っていない場所や会えていない人が多くて(ピオニーとか! アスランとか!)、いつかは会いたいなあと思うけど……まあ、こればっかりはタイミングにもよるよね。全部知ってるからって上手くいくわけではないということは、今回の怪我に証明されてしまったし。
なんて考えていたら突然「はぅあ!?」と驚いた声が背後から聞こえてきた。
「じゃーん!?」
「アニス! 良かった、まだシェリダンを出てなかったんだね!」
「何でがこんなところにいんのっ!? ていうか怪我! が怪我したって、イオン様に聞いたんだけど……!」
「それはもう治ったから大丈夫。ここにいるのは……ヴァンの命令とかじゃなくて、やりたいことがあったから。えっと、みんなも揃ってるんだよね?」
「あ、そっか全部解ってて来てるんだよね。うん、タルタロスの改造は明日にも終わる予定って言ってたよ」
「はぁ〜……良かった、間に合った……」
逆に、明日になったらあのイベントが発生するってことではあるんだけど……まあ、そればっかりはどうにか頑張るしかない。
私はアニスに案内してもらって、みんなが集まっている集会所へと向かった。怪我をしていたはずの私が訪れたことにみんな結構驚いたみたいだったけど、ほとんど治ったことを伝えればホッとしてくれた。
「すみません、あの後面会にも行けず……モースに見張られていまして。命に別状がないことは教えていただけたのですが」
「いえいえ、大丈夫です。イオンもみんなも色々大変だったでしょうし……ナタリアも、無事で良かった」
「ありがとう。あのときはどうなるかと思ったけれど……が私に伝えてくれた言葉の意味を、私はこの目で見ることができましたわ。それだけで十分です」
「それは全部ナタリアが築き上げてきた成果だよ」
この調子だと、バチカルを脱出するとき相当手厚く見送ってもらえたんだろうな。その場に立ち会えなかったのはちょっと残念だけど、ナタリアがすっかり立ち直っているみたいで何よりだ。
「ところで、がわざわざここまで来た……ということは、ルグニカ平野のときのように何か警戒すべき事柄がある、ということでよろしいんですね?」
ジェイドが落ち着いた声で切り込んできたので、私は深く頷いた。
戦争で兵士たちが亡くなるのは、嫌なことではあるが仕方のないことかもしれない。もちろん一人だって死んで欲しくはないと思うけど……それ以上に、一応は民間人であるイエモンさんたちがヴァンの作戦のために殺されるのは避けたかった。それにどちらにせよシェリダン襲撃の前にタルタロスの改造は完了して、出航もしてしまうのだから、言い方は悪いがイエモンさんたちは結果的に無駄死にのようなものだ。彼らが稼いでくれた時間はほんの僅かで、それが大事な時間だったのかもしれないが――極論、大佐がインディグネイションでも放てば稼げるものではある。
まあ、知らなかったらどうしようもないことってあるから、こういうことを好き勝手言えるのは私の特権でしかないのだが。
「もうすぐ、タルタロスの出港を妨害するために神託の盾騎士団がシェリダンを襲撃します。そして……イエモンさんたちは、殺されてしまいます」
「っ……! どうして彼らが殺されなければなりませんの!?」
ナタリアが声を荒げる。私は視線を移し、彼女の名前を静かに呼んだ。
「神託の盾騎士団は……ヴァン総長は、ナタリアたちのやっていることを阻止しなくてはいけない。そのためにはタルタロスの改造作業をしている彼らから止めようって考えるの。でも、改造はほとんど終わっていて……イエモンさんたちは、みんなの出港を成功させるための犠牲になる。だから、私はその未来を変えに来たの。さっきアニスから、明日にはタルタロスの準備ができるって聞いたから……今日中に、私はシェリダンの皆さんを守るための準備をします。それが終わったら、明日の出港には私も同行させてもらえる?」
「なるほど、ヴァンが考えそうなことです。ええ、もちろん構いませんよ。あなたがそんなくだらない嘘を吐くためにここまで来たとは思えませんし……幸い、我々も今は待機中です。何か手伝うことがあれば何なりと」
「ありがとうございます、大佐。それじゃあ、ここと港の何か所かに譜陣を描いておきたいんです。手分けして、この通りに描いてもらってもいいですか?」
私はここに来るまでの間に準備しておいた譜陣のメモをみんなに配った。医務室にいる間に本で学んだものをベースに、ディストの説明を受けて改造したものだ。
「第六音素の譜陣ですか。これはどのような?」
「私の『フォースフィールド』を利用したものです。光の屈折を利用して、この譜術が発動している空間にいる人間をマーキングされていない人間から見えなくする……『カモフラージュ』とでも言えばいいですかね? もちろん元のフォースフィールドの効果もあるので、攻撃も多少は弾きます。ですが、私が現地を離れてしまうので……できるだけ効果を持続できるように譜陣の形であちこちに展開して、イエモンさんたちには逃げ込んでもらおうかと」
「なるほど、意図は理解しました。では早速準備に入らせていただきますよ。あなたはまだシェリダンに詳しくないでしょうから……そうですね、ルーク。と一緒に、イエモンさんたちに説明をしながら譜陣を敷いて回ってください」
「おう、了解! 、こっちこっち!」
ルークに案内され、私はまずシェリダンに残っていた職人さんたちに挨拶をした。ルークは職人さんたちとすごく打ち解けており、まるで孫みたいに扱われている。ルークも職人さんたちとお話する姿はとても楽しそうで……もし彼らが自分たちに道を作るために死んだと知ったら、きっと私が思う以上に苦しんでしまうだろうということが伝わってきた。
「イエモンさん、ちょっといいかー!」
「ん? おぉ、なんじゃルーク。タルタロスなら順調で……む? そっちの子は……?」
「初めまして、神託の盾騎士団所属のです。ルークたちと一緒に地核に行くために合流しました」
「ほぉ、神託の盾の……イエモンじゃ、よろしくのぅ。それで、ここにはタルタロスの様子を見に来たのかい?」
「いや、それが……」
ルークが先に、これから起きることを掻い摘んで話してくれた。イエモンさんは長い眉毛で目が隠れて見えないけれど、表情を変えずに静かにルークの話を聞いて――それから、こくりと頷く。
「それは『預言』ということか?」
「……そう取っていただいて問題ありません」
「なるほど……まさかそんな結末が待ち受けておるとはのぅ。長生きはしてみるもんじゃ」
「お言葉ですが、そうなると決まったわけではありません。イエモンさん……私、この街に来るのは初めてですけど、お噂はずっと聞いていました。あなたたちには外殻大地が降下した後、みんなのためになる譜業をたくさん作ってもらいたいと私は思います。ですから、皆さんのことは私に守らせてください。絶対に、誰一人……死なせたくないんです」
「……そうか。若い嬢ちゃんにそこまで言われちゃあ、文句は言えないのぅ。解った。タルタロスの方はもう少し早く仕上げられるか確認しとくわい。全部終わったら、嬢ちゃんの言う通り譜陣を発動させて隠れておく。そんで、ルークたちと一緒にシェリダンまで作戦の成功を報告に来ておくれ」
「イエモンさん……!」
「ありがとうございます。絶対、守りますから」
イエモンさんはニカッと笑い、「そうと決まりゃ、さっさと作業を終わらせるぞい!」と張り切った様子で奥へ消えていってしまった。許可をもらった私たちは、その場に譜陣を描き始める。結構色んなところに描けたから、後は夜のうちに技師の皆さんに味方識別をしておかないと。
「……あのさ、こんなこと訊いていいか解んねえけど。は今んとこ、思った通りに動けてるか?」
「んー……まあ、一応は。この前の怪我とか予定外なことはあったけど、エンゲーブの人たちは脱落者なくお送りできたし……イエモンさんたちのことも、きっと何とかできるって信じてる。この調子で、私は私にできることをやっていくつもりだよ」
「そっか。俺もさ、と同じで誰にも死んで欲しくない。アクゼリュスのときって、ホント、自分のことばっかで……あんな風に助けられない人がいるなんて思ってもみなかった。もし俺がアクゼリュスに行く前にと会えてたら、あの人たちも……」
「……」
「……なんて、考えちゃダメだよな。なかったことにはできないし、俺は俺の罪を背負うって決めたんだ。シェリダンのみんなだって、が教えてくれた以上絶対に死んでほしくない。俺たちは世界を守りたいけど……もう、誰かの犠牲の上に成り立つ平和は懲り懲りだ」
ルークだって犠牲にはならないで欲しいよ――と、私は言わない。
彼の言うことは正しい。誰にも死んで欲しくないと思うのは私も同じだから。けれど……私は、知っている。この先、ルークは絶対に犠牲を踏み締めて次に進まなくてはならないということを。それについてはきっと、私だってどうしようもできないから。
だから私は曖昧に頷いた。譜陣を描き終えて次の地点に向かう間も、心の奥のモヤモヤは見ない振りを続けて。
「はい、これでラストです! 皆さん、明日ルークたちは朝イチに出港します。神託の盾が来たらすぐ、譜陣のあるところに逃げてください。見送りは要りません。その代わり、ルークたちが帰ってきたときは――笑顔で、出迎えてください」
「ああ、もちろんだよ。こんなに譜術を使い続けてくれたちゃんのためにも、私らが死ぬわけにはいかないからね」
「ありがとうございます。それじゃ、行きますよ! ――絢爛たる輝きよ、彼の者の姿を幻影に包め!」
カモフラージュの譜術が自動的に発動するよう味方識別を繰り返すこと何十回か。最後のグループに味方識別を済ませ、私はグミを口に放り込んだ。時間としては二時間くらいだけど、ずっとやってたから集中力が切れている。
リグレットたちが何時にシェリダンを訪れるかは解らない。原作のイベントは昼間だったけど、本来襲撃するなら夜の方が適しているはずだから油断はできないということで、ガイとナタリアがそれぞれ警戒をしてくれている。技師の皆さんにはタルタロスをすぐ出港できる状態にしてもらって(本当はすぐにでも出港したいけど、暗いうちは危険なので朝を待つしかなかったのだ)、作業の済んでいる人は譜陣の近くで寝るよう伝えてある。
味方識別の作業を終えた私は、遅い夕食を摂るべく部屋に戻った。そこにはイオンとアニスの姿がある。どうやら、最後のチェックをしているようだ。
「お疲れ様〜」
「おっつー。味方識別、終わったの?」
「うん、バッチリ。後はもう祈るしかないけど……」
「大丈夫です、きっと上手くいきますよ。こちら、タマラさんたちが用意してくださたった夕飯です。しっかり食べて、明日に向けて休んでくださいね」
「ありがとう! は〜、お腹空いた……!」
用意されていたサンドイッチに手を付ける。アニスが温かい紅茶を淹れてくれたので、それも口に運んだ。
「そういやさ、神託の盾が来るっていうのにはどうやってここまで来たワケ? ヴァン総長許してくれなさそうじゃない?」
「いや〜……実はさ、抜け出して来たんだよね。本当はまだ医務室にいなきゃいけないんだけど、シンクの話聞いてたらシェリダン襲撃がすぐだって解って。色々仕込んでおいたからダアトからここまではすぐだったよ」
「それは……その、シンクが結構怒ってるんじゃないですか?」
「そんなことないと思うよ。……呆れてはいるかもだけど。多分シンクにとって私って、死んでも構わない駒だからさ。私が余計なことをしている、って意味では怒るかもしれないけど、抜け出したことについては何とも思わないよ。ばったり会ったら裏切り者として殺されちゃうかな! アハハ!」
「アハハじゃないでしょ……ま、人の心なさそうだもんね〜。神託の盾に戻りにくくなったら、このままアニスちゃんたちと一緒に行こうよ。イオン様もその方がいいと思いません?」
「そうですね。は僕の命の恩人でもありますし、シンクに殺されてしまうくらいなら一緒に来ていただきたいです」
「……ありがとう。この先ヤバそうだったらそうする!」
実際、脱出した時点でヴァンの心証は最悪になってそうだしそれもアリかなあ。……でも、やっぱり私は彼らと別れて行動したくない。タイミングは知っているとは言え、できるだけみんなの近くにいて、すぐに対応できるようにはしておきたいし。
「っと、ご馳走様! お言葉に甘えて私は休ませてもらうね。二人も明日は忙しくなるから、しっかり休んで!」
「うん。おやすみ〜!」
「おやすみなさい」
イオンとアニスにおやすみを告げ、私は用意された寝床に寝転がる。夜明け前まであと何時間か。少しでも体力を回復させるため、すぐに目を閉じた。
2025.12.15 柿村こけら
Prev / Back / Next