祈りは永遠に。
28:仲間
ボクたちが地下に辿り着いた時にはもう剣撃の音が聞こえていた。アッシュの姿が見えるまで予想以上に時間がかかってしまったせいだろう。
「あれは……ルーク?」
「みたいだね。たちの方にいると思ってたけど……」
「ですが、決着はついたようですよ」
がああ言っていたのでてっきり神託の盾の兵士かレプリカ兵士かと戦っていたのかと思いきや、アッシュが戦っていたのはルークだった。アッシュは手にしていた「ローレライの鍵」と呼ばれる剣を取り落とす。どんな経緯でこの二人が戦っていたのかは解らない(まあ、予想はつくけど)が、軍配はルークに――レプリカに上がったということだ。アッシュは舌打ちをしながらローレライの鍵を拾い上げ、ルークをいつものように睨みつける。
「くそ……被験者が……レプリカ風情に負けちまうとはな……そいつを持っていけ」
アッシュが無造作にローレライの鍵をルークに投げ渡す。互いに全力で戦ったからかどちらも息が荒くなっていたが、アッシュはそれを整えながら部屋の中心に敷かれた譜陣の上に立った。力を込めれば奥の大きな扉が開く。どうやら片方が犠牲にならないと出られない仕組みという部屋のようだ。
「おまえは早く行け」
「でも、アッシュ! その怪我じゃ……」
「人の心配をしている場合か、屑が。こんなものどうとでもなる。ナタリアたちが待ってるんだろうが!」
「……約束しろ! 必ず生き残るって! でないとナタリアも俺も……悲しむからな!」
「うるせぇっ! 約束してやるからとっとと行け!」
ルークは相変わらずの情けない顔を見せたが、振り払うように首を振って走り出す。白い扉の向こうに赤毛が消えた後、アッシュは譜陣に力を送るのをやめてずるずるとその場に座り込んだ。あんなコト言ってたけど、どうとでもなるようには見えない。隣のラルゴとディストもアイツの強がりに呆れるように溜息を吐いた。そりゃ、こんなバカが地下で勝手に死ぬと知っていたらもボクらを送り込むってもんだ。
「お疲れ、被験者サマ」
「シンクにラルゴ……それに、ディストまで? おまえら、どうして……」
「にこちらへ行って欲しいと言われてな」
「まったく、副師団長の身で師団長を三人もコキ使うなんてね」
グミの袋とから預かった剣をアッシュに投げ渡す。アッシュは舌打ちをしつつ、グミを口に放り込んだ。血が出てるとは言え本気の殺し合いをしたわけではないから、これで体力は回復できるだろう――そう思った瞬間、四方八方から鎧の音が聞こえてきた。ディストが椅子ごと宙に浮かび上がり、連れてきていた譜業を戦闘体勢に切り替える。
入ってきたのは神託の盾の兵士とレプリカ兵――の言った通りだ。神託の盾兵の方はかつてのボクらのようにヴァンの計画を信奉しているというわけではなく総長命令として連れてこられただけに見える。なんでって、ボクらの姿を見て露骨に驚いているからだ。アッシュとボクが裏切ったことくらいはヴァンに言われていたのかもしれないが、よもやラルゴとディストまで一緒だとは思いもしなかったのだろう。
「ふむ……指揮系統は神託の盾兵士を隊長とし、その下に大量のレプリカ兵を配置ですか。まあ、何も知らないレプリカ兵に指揮を任せるわけにはいきませんからね。駒として使うなら十分でしょう」
「なら、やることはシンプルだな。――おい、おまえたち!」
ラルゴの大声に神託の盾兵がビクッと震える。まあそれもそうか。コイツら、普段から訓練でラルゴとは顔を合わせてるもんな。ボクやディストが師団単位の訓練に顔を出さない分、ラルゴやリグレットが面倒を見ているので「教官」として恐れられ、敬われているというわけだ。下手したらヴァンよりラルゴの方が恐ろしいと思う兵士もいるかもしれない。というかいるんだろう、この感じからすると。
「ヴァンの命令で来たのだろうが、ここで武器を手放すのであれば見逃してやろう。だが……それでも俺たちと戦うというのなら、容赦はせぬぞ」
ラルゴが大鎌を構える。いくら仕事とは言え、訓練ではなく本気のラルゴ相手に剣を構えるほど彼らの忠誠心は強くない。この威圧が届かないとすれば――それは、何も知らないレプリカ兵だけだ。
雛鳥に刷り込むように、彼らは生まれてから「エルドラントに入ってきた人間を殺す」以外のことを教えられていない。隊長が動こうと動かまないと彼らが腕を止める理由はほとんどないわけだ。だから剣を握り、命を惜しいと思うこともなく特攻してくる。
「コイツら……」
「からは『できるだけ殺すな』というオーダーを受けています。正直、あなた方であればあのレベルの兵士に手加減する方が難しいとは思いますが、せいぜい頑張ってください。私は支援に回ってあげますから」
「はいはいご苦労サマ。――六神将烈風のシンク、ほどほどに相手してあげるよ」
「黒獅子ラルゴ、参る」
「チッ……おまえらの相手はこのアッシュ――いや……ルーク・フォン・ファブレだ! 覚悟しな!」
回復を終えたアッシュが剣を取り、レプリカ兵士たちの間に切り込んでいく。この人数なら前はあの二人に任せればいいだろうと判断し、ボクは後ろから威力を落とした譜術で広範囲のレプリカ兵士を蹴散らした。ディストは戦闘を譜業に任せ、本人は椅子に座った状態で「はい、降伏した神託の盾の者はこちらに集まりなさい!」なんて拡声器で告げている。聞き分けのいい兵士たちは素直にディストの指示に従っていた。「できるだけ死なせないで」なんて言っていたも、こんな学校みたいな光景を見たら流石に笑う気がする。
「大地の咆哮よ……グランドダッシャー!」
ラルゴとアッシュに味方識別をしてから譜術を放つ。足元から隆起した土塊に足を取られて転んだレプリカ兵たちの身体を、ラルゴが鎌の峰を使って器用に打ち上げた。空高く放られて地面に激突した兵士たちは気を失うが、そんな光景を目の当たりにしても他のレプリカたちは戦況を理解できずに突っ込んでくる。
「埒が明かないね……」
ヴァンの奴はどれだけのレプリカを用意していたのか、扉からはわらわらとレプリカ兵が入ってくる。正直兵士としての訓練を積んでいるわけでもないので大した脅威ではないし、こちらは六神将の四人が揃っている状態だ。アッシュも落ち着いているし陣形が崩れることはないにせよ、とにかく時間が食われていく。ルークが出ていってから結構経ってしまったし、たちがヴァンのところに辿り着くのも時間の問題だろうと思うと気が逸った。
「チッ……」
「……シンク、おまえは先に行け」
いったん前線から下がってきたラルゴがボクの隣まで来て告げる。コイツが笑うのは何度も見ているけれど、今までの笑顔とは少し違う感じがした。自虐や皮肉ではない、ボクらにはなかった笑顔。
「全て倒していてはメリルたちに追いつけなくなるだろう。だが、相手のレベルは大したものではない。俺たち三人がいれば十分だ」
「ラルゴ……」
「恐らくもおまえを待っている。もちろん、俺たちもコイツらを倒し切ったらすぐに追いかける」
「……解った。でも、が待ってるのはボクだけじゃないと思う。アイツのことだから、アンタたちもいないと泣いちゃうんじゃない」
「あの子が泣くようなタマですかねぇ……まあ、こちらはこの天才・薔薇のディストに任せれば万事問題ありませんよ!」
スッと降りてきたディストが呆れたように溢しつつ、譜陣に力を送り込んだ。ルークの通っていった扉が開いたのを確認すると、ボクは三人に後を任せて走り出す。
――、無理してないといいけど。
何かと無茶をしがちな彼女の顔を思い浮かべながら、ボクは真っ白な廊下を全速力で駆け抜けた。服の中で揺れるペンダントを少し抑え、作り出されたばかりの街には見向きもせずに。
2025.12.15 柿村こけら
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