世界の果てでは雨が止む

01:王都

「よお、
「こんばんは、アルヴィン」

 依頼人から報酬金をもらったところで、背後から声を掛けられる。振り向けば待ち合わせの三十分前だというのに彼がいた。
 彼――アルヴィンは、生まれたときからの幼馴染みだ。傭兵という仕事に就いてからは一緒に仕事をすることもあり、恐らく私の十八年という人生の中で一番長い時間を共に過ごした人間だろう。

「次の仕事決まったか?」
「ううん。今回結構な額だったから、しばらくはイル・ファンでゆっくりしようかなって」
 夜光の王都と呼ばれるここ、イル・ファンはラ・シュガル国の主都であり、いつでも夜域に存在する永遠の夜の街だ。どこか神秘的な雰囲気のこの街が私は好きで、何日だって滞在していられると思う。でも、家を持とうとは思わないけれど。
 私には根無し草の傭兵生活がお似合いだ。

「そっか。じゃあ一緒に動けそうにはねーな」
「アルヴィンはもう決まってるの?」
「いーや。でも久々にシャン・ドゥにも行きてーし……それに……」
 そこまで言って彼は口ごもる。こんな風に黙るときは、大抵あのことについてだ。
「……アルクノアから、何か指令?」
「察しがいいな、。まあその通りだよ」
「一人で無理そうなら手伝うから言ってよ。私、くだらないことでアルヴィンに死なれたくないわよ」
「大丈夫だよ、大したことじゃねーから。それに、俺だって出来るだけやらねーようにしてるんだぜ?」
「でも……っ」
 アルクノアの行いが全て正しいとは思っていない。それでも私は――私たちは、それに縋るしかなかった。

「心配してくれてサンキュ。じゃあ、またどこかで会おうぜ」
 飄々としたまま彼は背を向けて去ってしまう。イル・ファンの中心には私だけが残された。


 宿でも探しにいくかな、と思ったとき、突然イル・ファンの灯が一斉に消えた。まるで何かに吸い取られていくかのように。
 この街の灯は精霊の力を元に点いているから、こんなことは起こるはずないんだけど。
 そんなイル・ファンの中で――ラフォート王立研究所はまだ明るいままだった。もしかして、研究所に何かある?
 余計なことに首を突っ込むつもりはないけれど、そんなことより好奇心が勝った。毎日が平凡な生活に若干飽きていたということもあるだろう。私の足は研究所の裏口へと向かっていた。



 排水路から研究所に入る。驚いたことに、警備兵たちは皆気を失っていた。壁にはまだ新しい焦げ目がある。強力な火の精霊術で出来たものだろう。
 精霊術が使えない身としては羨ましい限りだ。私やアルヴィンには逆立ちしたって使えないそれがもし使えたら、戦闘も少しは楽になるだろうか……いや、誰かに背中を預けることなんて滅多にないし、やっぱり私には自分の得物さえあれば問題ない。


「っていうか入ってきちゃったのはいいけど帰りどうしよう……」

 なんて言いながら歩いていれば開けた場所に出た。部屋の中心部には大きな黒い槍のようなものが鎮座している。

「ミラ!?」
 ふと聞こえた少年の声に身を乗り出してみれば、そこには私より何歳か年下にみえる少年と、成人しているであろう女性がいた。どちらも研究職だとは思えない。となると、私の前に警備兵を倒したのはあの二人組か。
 女性の方が何事か呟くと、女性の周りに四つの影が出現した。赤、青、緑、黄色。四色の姿は、霊力野を持たない私だって知っている。

「四大精霊――!?」

 私の声と少年の声とが重なった。
 確か四大の召喚は二十年前から出来なくなっているはず。それなのにあの女性はいとも簡単にそれを行ってしまった。
 一体、この状況は何なのだろうか?



2014.08.04 柿村こけら



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