世界の果てでは雨が止む
02:契約
「やるぞ。人と精霊に害をなすこの兵器を、破壊する!」
女性の指先が魔法陣を描き出す。同時に四大たちは全身からマナをあふれさせ、黒い槍へと飛び込んでいった。まさか、この兵器らしきものを壊すつもりなのか?
イフリートの爆炎が、ウンディーネの水圧が、シルフの突風が、そしてノームの重力が、一体となってそれに襲いかかる――が、槍にはヒビの一つも入っていなかった。
「させねーよ!!」
突然、声が降ってきた。見上げれば、赤い礼服を着た少女が髪を振り乱しながら叫んでいる。彼女は大きな機械を適当に弄って、それから再び高笑いを零した。
「あッ!?」
瞬間――全身からマナが吸い出される感覚が私を襲った。私だけじゃない、階下の少年と女性、それに少女までもが胸を抑えて苦しんでいる。
「アハハ……みんな……みんな死んじゃえー!!」
女性は何とかして槍に近付くと、必死に指を動かす。ここからではよく見えないが、何かを操作しているようだった。
四大の姿が槍に吸い込まれる直前に、階下にいた二人は床が崩れると同時に下へと落ちていった。私もどうにかしてここを出ないとマナを吸い尽くされて死んでしまう。
上にいた少女もいつの間にか消えていた。万事休すか。ああもう、面倒なことに巻き込まれたものだ。
『――――……そこに、誰かいるのですか?』
「っ!? 声……?」
『よかった、聞こえていましたね。私はウンディーネ。あなたの、名前は?』
「……、です。あなたが、ウンディーネ?」
脳内に凛とした声が響く。槍に吸い込まれまいと必死なその姿から直接話し掛けられているということに私は気付いた。
『時間がありません、単刀直入に言います。、私と契約をしてくれませんか』
「私が……ウンディーネと契約……?」
『はい。先程までここにいた二人を見ましたね? その二人のうちの女性の方――彼女に力を貸して欲しいのです。そのために、私が微力ながらあなたに力を与えます』
「でも……私……」
私には霊力野が存在しない。だからウンディーネと契約したところで、精霊術は使えないはずだ。
『……仮契約、という形です。安心してください、私を召喚出来る訳ではありませんから』
「……だけど……」
『お願いです、。もう……本当に、時間がありません』
ウンディーネの蒼い双眸が私を貫くように見つめる。彼女は本当に、主らしきあの女性のことを大事に思っているんだろう。
「――解った。契約するよ、ウンディーネ」
『!』
「きっと大した力にはなれないけれど。あなたの力を、私が預かる」
『ありがとう……。必要とあらば、私の名を名乗っても構いません。どうか――どうか、』
水色の身体が溶けるように槍へ吸い込まれていく。優しそうな精霊は私へ伸ばしていた手の力を抜いた。
『私たちのミラを――マクスウェル様を、助けてあげて』
そう言うと、ウンディーネはフッと微笑んだ。そして、槍の中へと吸い込まれて消える。最後に彼女が伸ばした手から水色の光が零れて、私の身体に溢れた。これは――ウンディーネのマナだろう。
私は霊力野を持っていないから魔術は使えない。使えないはずだ。だけど、この水色のマナはきっと、魔術を使役するために構成されている。
「――満ちよ流水、スプラッシュ!」
試しにそう呟いてみれば、私の手を中心として蒼い魔法陣が広がる。そしてそこからマナが零れて、それは確かに威力を持つ水となった。
「嘘……」
何はともあれ、脱出しなければ何も出来ない。スプラッシュの力で壁に空いた大穴から私は階下へと飛び降りた。
助けると言ったって、私は彼女――ウンディーネの話によると、精霊の主マクスウェル――がどっちへ向かったかさえ知らない。
「にしても酷い目に遭った……」
マナを限界まで吸引されたせいで歩くことさえしんどい。重い身体を何とか動かして、私はイル・ファンのホテルにチェックインした。
部屋に到着してすぐにベッドに飛び込む。何もしないまま、今は泥のように眠りたかった。
2014.08.04 柿村こけら
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