世界の果てでは雨が止む
06:爆発
「どうやら薄汚いドブネズミが紛れ込んだようだな」
突然の乱入者にナハティガルは舌打ちをする。ミラの名を呼んだ少年は、ミラがナハティガルに斬り掛かろうとしている状況に困惑しているようだった。
「……!」
少年の後ろから彼の仲間とおぼしき二人が現れる。そのうち一人は見覚えがあるどころではない。久し振りに会った幼馴染みは、目だけで私にサインを飛ばす。
私もアルヴィンに頷き返して、その隣に立つ老人を見た。あれは確か、かつてラ・シュガル軍に身を置いたという……!
同時に兵士たちも気付いたらしく、恐る恐るその名を口にする。それを耳にした少年もまた驚いて目を見開いた。
「ローエンさんが、あの……学校の授業で習った『指揮者イルベルト』!?」
「……昔の話です」
流石にこれにはアルヴィンも驚いたようで、「指揮者」をじろじろと見つめていた。
「ふん。国も軍も捨てたあなたが、今更何のご用ですかな?」
ジランドおじさんがそう吐き捨てる。おじさんが今いる場所は、かつてイルベルトのいた場所。プライドの高いおじさんのことだ、実際にイルベルトが目の前にいるとなれば癪に障るのだろう。
おじさんのそんな言葉を無視して、イルベルトはドロッセルの前に進み出る。どうやら今はドロッセルの元で執事をやっているらしく、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
イルベルトに無視されたからか、ジランドおじさんの目がキッと細くなる。
「陛下、こちらへ! このような下賤の者どもに、陛下御自ら、これ以上構われる必要はございません」
それを受けてナハティガルは部屋の奥へと消える。傍らにいたミラは体力が回復したのか、剣を握り直すと彼らの消えた方へと走り出した。
「ミラ!?」
「ミラ、一人じゃ!」
私は慌てて彼女の後を追う。扉が閉まる直前、私はギリギリで中に滑り込むことが出来た。
「待て、ナハティガル!」
走りながら詠唱を完了させた彼女は、ナハティガルに向かって精霊術を放つ。しかし、間には呪帯があるため彼女の術は空中で消えた。
「……精霊術にも反応するのか」
「ええ。その足環を着けている限りは」
もっとも、私の呪環は発動していないので、呪帯の影響は受け付けないのだが。
「無駄だ、自称マクスウェル」
「……答えろ。なぜ黒匣を使う? 民を犠牲にしてまで、必要以上の力を求めるのだ? 王はその民を守るものだろう?」
「ふん、お前にはわかるまい」
呪帯があるからだろう、ナハティガルは勝ち誇った顔でそう告げた。
時間の無駄だとでも言わんばかりに二人は去ろうとする。しかしその瞬間、呪環が外れていないというのにも関わらずミラは走り出した。手にした剣の切っ先は当然ナハティガルを狙っている。
「ミラ!!」
「覚悟しろ、ナハティガル!」
さっき、呪環を着けた女性が呪帯に押し込まれるのを彼女は見ていたはずだ。このままじゃ、ミラが。
「〜〜っ、流麗なる聖水の鎧! アクアプロテクション!」
正直、アルクノアでもある私にとってマクスウェルなんて守る価値もない。でも、せめて四大に再会出来るまでは生かしておいてやってもいいかな、とは思った。
私の放った水がミラの身体に薄い膜を作る。彼女はそのまま呪帯を通り抜けて――……!
――爆発音が、ガンダラ要塞に響き渡った。
2014.08.04 柿村こけら
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