世界の果てでは雨が止む

07:説教

「……落ち着いた?」
か」

 ジュードと入れ替わりで私はミラの寝ている部屋を訪れた。
 彼女の足首にあった呪環が爆発してから数日。全身に大火傷を負った彼女はカラハ・シャールに到着してずっと昏睡状態だったのだが、さっきやっと目を覚ましたのだ。
 爆発の中心であった足は、すっかり動かなくなっていたけれど。

「お前の術が私を守ってくれたのだろう? すまなかったな」
「どういたしまして。……そんなことより、まだ動くつもりなのね?」
「聞いていたのか」
「立ち聞きしたことについては謝るわ。でも……私、ちょっと怒ってるの。何でだか解る?」
「怒る……?」
 訳が解らない、といった顔でミラは私を見る。そんな彼女に内心呆れながらも、私はつかつかと彼女の元に歩み寄った。

「い……ッ!?」
「痛いでしょう?」
……お前、何を……!」

 私はミラの膝下をぎゅっと掴んだ。流石に一番火傷の酷い足首を選ばなかったのは私の良心だ。
「諦めない意志っていうのは大切よ。ウンディーネだってミラを諦めたくなかったから私に契約を持ちかけたんでしょうし」
「っ……!」
「でもね、現実は意志だけじゃどうにもならないのよ。今のあなたに剣が使える? イル・ファンまで一人で行ける?」
「それは……だが、私は!」
「聞いて、ミラ。アルヴィンから聞いたけれど、あなたとジュードはS級の指名手配犯よ。顔が割れてるし、道中スムーズにはいかない。ジュードはあなたと一緒にイル・ファンまで行ってくれるかもしれないけれど、行けると思う? 歩けもしないミラを連れて、ジュードに一人で戦わせるの?」

 私がそう告げれば、彼女は完全に黙ってしまった。
 大体、口だけで何とか出来ると思ったら大間違いなのだ。諦めなければ出来るというのなら、私やアルヴィンはとっくにエレンピオスへ帰れている。

「ミラに必要なことは使命を遂げることでも諦めない意志を持つことでもないわ。足を治すことよ」
#……」
「明日になったらジュードに謝りなさい。ミラの意志がジュードに大きな負担を掛けることになったのかもしれないのよ」
「……何だかウンディーネに説教されている気分だ」
「私もウンディーネですからね。で、返事は?」
「む……すまなかった。私は少し、使命に溺れていたようだ」
 解れば宜しい、と告げて私はミラの部屋を出る。


 言いたいことを言い切ったら外の空気が吸いたくなったので、私はそっとシャール邸を出た。
「お、
「アルヴィン……」
「こんな夜中にどうした? 寝られなかったか?」
「んーん、大丈夫だよ。……ねえ、アルヴィン」
「何だ?」
「この街の別名、知ってるよね」
 そう言えば、彼はこくんと頷いた。傭兵である私たちは何度もカラハ・シャールを訪れている。この街が出会いと別れの街だということは、もうずっと昔から知っているのだ。

「アルヴィンは、来ないんでしょう」
「ご名答。は行くのか?」
「うん。ウンディーネと……ジランドおじさんにも、頼まれたから」
「……そっか。俺も何かあったら手紙出すわ」
「解った。それじゃ……お休み、アルヴィン」
 まだ外に留まるらしい彼に手を振って、私は屋敷の中へと戻る。

 きっと明日になればアルヴィンは一足先にこの街から姿を消しているだろう。そんなことを考えながら、私はベッドにもぐり込んだ。




2014.08.04 柿村こけら



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