世界の果てでは雨が止む

08:出発

 予想通り、アルヴィンの姿は消えていた。だけど彼のことだ、また少ししたら戻ってくるだろう。
 翌日になって、ジュードが自分の故郷、ル・ロンドに住んでいる父親ならばミラの足を治せるかもしれない、と言い出した。そのためイル・ファンに向かう前にル・ロンドへ行くことになり、私たちはサマンガン海停に進路を定めた。

「道中、お気を付けて」
 ローエンが深々と礼をして、私たちを送り出してくれる。ドロッセルが馬を一頭貸し出してくれて、ミラはそれに乗ったまま深く頷いた。


「じゃあ、行こう」
 ここからは私たち三人だけだ。ジュードは背にローエンからもらった数日分の食料の入った鞄を背負って先頭を歩いている。私はミラの乗った馬の手綱を引いて歩いていた。

「それにしても、も来てくれるなんて思わなかったよ」
「私はウンディーネにミラのことを頼まれたからね。イル・ファンまでは同行するつもりよ」
「頼まれれば何でもするんだね? アルヴィンと似てる」
「あら、私もアルヴィンと同じ傭兵だもの。こういうことは慣れてるよ」
 そう言えば、ジュードは目を丸くした。忘れていたけれど、私が傭兵だということをジュードには言っていなかったのだ。

「……って、僕とそう歳変わらないよね?」
「18歳よ。ま、色々あって……あら?」
 前方に不思議な影を発見した。どうやら大型のボアが岩のくぼみにずっぽり嵌ってしまったらしく、後ろ足だけが穴から飛び出している。

「あれ、どうする?」
「下手に刺激しない方がいいと思う。先を急ごう」


 馬の手綱を引いた瞬間だった。
 ボアがすっぽ抜け、私たちの方めがけて飛んで来たのだ。

「うっ!?」
 ボアに驚いた馬が嘶き、ミラを地面に落とした。そして馬は遙か彼方へと走り去ってしまう。

「嘘……!」
「言ってる場合じゃないよ! 、僕とリンクして!」
「あ、うん! ミラ、荷物見ててねっ!」
 岩陰までミラを運んでから、リリアルオーブに意識を集中させる。ぱしゅ、と軽い音がしてジュードとリンクが繋がった。


「ッ、三散華!」
 ジュードの拳がボアの横っ腹に叩き込まれる。バランスを崩したところを見計らって弾丸をお見舞いした。
「レインバレット! ジュード、続いて!」
「任せて! はあぁっ、海龍拳ッ!」
 水属性を帯びた銃弾と共に、ジュードの魔神拳が変化し海龍拳となってボアに突き刺さる。
 巨体はその場に崩れ落ちた。こちら側に怪我がなくてよかったが、馬に逃げられてしまったのは手痛い。


「暗くなってきたし、この辺で今日は休もう。僕がミラを背負うから、は荷物をお願い」
「ええ、了解」
 岩陰に出来た小さな洞窟を陣取る。ジュードは火を起こして料理を始めたので、私はローエンが持たせてくれた荷物の中から包帯と痛み止めの薬草を取り出して、ミラの足に巻かれた古い包帯を外していく。

「馬から落ちたとき、大丈夫だった?」
「ん、まあな。受け身は取れたぞ」
「そう、なら良かった」

 新しい包帯を丁度巻き終わったとき、ジュードが小皿を持ってこちらへ戻ってくる。パンとスープ、それから切り分けられたチーズとベーコンだ。
「……ジュード、料理上手だね」
「うむ。ジュードの料理は最高だぞ!」
「なんでミラが偉そうなの。お代わりあるから言ってね」

 ジュードがにっこりと笑いながら告げる。手元のスープは温かい味がした。こうして旅をして、誰かの作ってくれた食事を食べるのなんて果たしていつ振りだろうか。




2014.08.04 柿村こけら



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