世界の果てでは雨が止む
09:使命
「ジュード」
「あ、。寝てても良かったのに」
「駄目。見張りは交代って決めたでしょ。明日ジュードが倒れても、私は二人抱えてル・ロンドまで行ける気がしないもの」
「はは……それもそうだね」
ぱちぱちと火にくべた薪が爆ぜる。炎に照らされた少年の横顔は、どう見ても幼い年相応の顔だった。
「ねえ、」
「ん、何?」
「眠くなるまで、話しててもいいかな」
そう告げたジュードの顔は、思った通り年相応のものだった。ミラと一緒にいるときはきっと常に気を張っていたのだろう。そうでなくても、ミラとカラハ・シャールに至るまで彼と旅をしたのはアルヴィンとローエンという歳の離れた大人、それからまだ幼いエリーゼだ。大人にもなれず、子供でもいられない。
「いいよ。あ、じゃあ私と会うまでミラたちとどこを旅してたのか教えてよ。ウンディーネにも教えたいから」
「うん!」
ジュードの顔が明るく見えたのはたき火のせいではないだろう。
本当はアルヴィンから逐一報告を受けていたので知っているんだけど、あれはあくまで情報に過ぎない。
「最初は、イル・ファンだったんだけどね、」
話し始めたジュードは嬉しそうだった。本当はずっと話をしたかったんだろう。私も幼い頃は一日の出来事をアルヴィンやジランドおじさんに聞いて欲しくて、寝る直前まで後ろをついて回ったことがあるから。聞けば彼は親元を離れてタリム医学校に通っているみたいだったし、話す相手なんていなかったのかもしれない。
「……ジュード?」
なんて考えてたら、声が途切れた。ふと隣を見ると、そこには寝息を立てている少年の姿。まるで本物の子供みたいに、ジュードは疲れて寝てしまったようだ。
もしミラに関わらなかったら、彼女の使命に巻き込まれることもなく平穏な学生生活を送っていたのだろう。
ミラの、使命。私はその全てを知らないけれど、先程のジュードの話によると彼女は「クルスニクの槍」という装置を怖そうとしているらしい。つまり、研究所にあったあの兵器だ。その名前は確かジランドおじさんの計画の一部で耳にした気がする。
どちらにせよ、ミラからの信頼は十分に得た。今の私なら、いつでも背後から彼女を撃ち殺せるだろう。
でも何故か、不思議と今はそんな気持ちになれなかった。ウンディーネと契約したこともあるだろうけど、ジュードに旅の話を聞いた後ではあの笑顔を曇らせたくないと思ってしまったのだ。
霊勢が変化し、空は夜から朝になった。私はたき火に水を掛けて消火し、外に出て一度伸びをする。ジュードとミラはまだ眠っていた。
「……ご飯作っとこ」
先程まで使っていたたき火はすっかり炭が溜まってしまったので、その隣に新しい薪を組んで火をつける。その上にフライパンを置いて加熱すると、ベーコンを並べてからタマゴを三つ投入した。
やがて美味しそうな匂いが洞窟の中に流れる。
「ん……」
「あ、起きた? おはよう、ジュード」
「……ごはん?」
「うん。……大丈夫? 寝惚けてる?」
試しに彼の頬を引っ張ってみるがあまり反応はない。どうやらぐっすり眠れたようだが、まだ覚醒しきっていないようだ。
フライパンを火から下ろす頃には彼の琥珀色の瞳はすっかり大きくなっていた。
「ふわぁ……、おはよ……」
……さてはさっきのこと覚えてないな、ジュード。
それから彼にミラを起こすよう告げ、私は皿にベーコンエッグを取り分ける。ミラがタマゴ一つくらいじゃ足りないような大食いだということを、そのときになって私は知った。
2014.08.04 柿村こけら
Prev / Back / Next