世界の果てでは雨が止む
32:革命
滑車を降りてカン・バルクの街を走り抜ける。突然の警報に住民たちが慌てふためいている中で、完全武装した兵士たちが私たちを取り囲んだ。そりゃ、そう簡単に逃げ仰せるとは思っていませんけども。
「私を置いて先に行くなんて、そんな奴滅多にいないわよ」
ブーツのヒールを鳴らしながらプレザが現れる。手にした本は淡く光り、いつでも精霊術を放てる状態だ。
「お前もガイアスの部下だったとはな。イル・ファンを脱出した私たちは、初めから狙われていたという訳か」
「ニ・アケリアじゃ、アルが陛下にあなたたちの情報を売ったのよ」
アル、と昔と変わらない愛称で彼女はアルヴィンの名前を呼ぶ。やっぱり未練タラタラじゃん、と思いながらも私は双銃を引き抜いた。
「アルヴィンは……最初からあなたたちの仲間だったんだね」
「……私たちの関係はご想像にお任せするわ。だけどね、ボーヤ。アルは組織を渡り歩く、根無し草の一匹オオカミよ。誰にも心を許さない……信じた方が悪いわ」
パラパラと勢いよく本のページが捲られる。
「ほとばしる銀河の飛沫、ブルースフィア!」
「ッ、流麗なる聖水の鎧! アクアプロテクション!」
飛び散る球体状の水を水の膜で受け止める。好都合、そういえば彼女は水の術を得意とするのだ。
「! 大丈夫!?」
「平気。むしろありがとうって感じかな!」
自分で現出させた水の膜に触れる。かつてレイアの服から水気を吸い取ったときのように、手のひらを通して水分を吸収し、マナに還元。敵に塩を送るようなものだ。
「悪いけどプレザ、それが私たち傭兵の生き様なのよ。その節はどうもすみませんでした、ッ!」
言い終わる前に弾をお見舞いする。彼女の所属していた舞台が壊滅するきっかけとなった事件に関しては私も一枚噛んでいる。けれどあれが私とアルヴィンに与えられた仕事だったのだから仕方あるまい。
「あなた本ッ当……前から気に食わなかった!」
「奇遇ね、私も!」
プレザの放つ水をバックステップで避ける。後ろではミラたちが兵士たちと戦闘を始めていた。
「プレザ!」
「ウィンガル!」
「逃げようとしても無駄なことだ!」
「おやめなさい、ウィンガル殿。戦巧者と名高いあなたですが、その誉、剣で得たものではないでしょう。若さが見誤らせいているのではありませんか?」
「イルベルト殿。それがあなたの限界だ。古い、何もかも」
プレザに追い付いたウィンガルが剣を振りかぶる。瞬間、彼の髪が一瞬のうちに黒から白に変化し、膨大なマナが放出された。
「マナが急激に……増霊極か!?」
「どうして……」
『何だお前ーっ!』
エリーゼの驚きに対し、ウィンガルはじろりとティポを睨んだだけだった。
「エリーゼ。サイバ シトゥン ディンスプワティ ティイ ヤイオディ ソプンディ ウィディ」
「……ロンダウ語?」
「そのようですね。私もロンダウ語は得意ではないのですが……恐らく、『誰にそんな口をきいている、先輩に敬意を払え』といったところではないかと」
溢れる殺気から言葉は解らずとも意味は解る。殺す気でいるのだ。
「きてウィンガル!」
「ワイオムティウムグ イム!」
「「アクアストライク!!」」
プレザの放った術とウィンガルの剣戟とが、水の衝撃波となって私たちに襲い掛かる。
でも残念。たとえ激流だろうとも、水という時点で私からすればただのマナの塊だ。
「ジュード! 強行突破しようっ」
「了解! 後ろは任せて!」
二人から放たれたアクアストライクを全身で受け止める。これだけのマナがあれば上級術だってあっさり撃てそうだ。
「――氷霧に彷徨え、凍牙に果てよ! 冷気に抱かれて刹那に沈め!」
膨れ上がるくらいのマナが大きな魔法陣をカン・バルクの空に描いた。水色のそれから巨大な氷塊が落下する。
「インブレイスエンドッ!!」
プレザたちと私たちとの間に氷は落ち、衝撃で周囲の兵士たちが吹き飛んだ。それを視認して、私は先行していたジュードたちの背を追った。
2015.06.14 柿村こけら
Prev / Back / Next