世界の果てでは雨が止む

33:飛翔

「ユルゲンス!」
 一足早くシャン・ドゥに戻っていたユルゲンスさんは、慌てている私たちを見てぎょっとする。そりゃそうだ。

「すぐにワイバーンを飛ばせますか? じゃないと……」
「追い付かれちまう、ってか?」
「アルヴィン!?」
 突然の声に振り向く。ダーク地下道の方からこちらに向かって歩いてくる姿は見間違うこともない。さっきカン・バルクで私たちを裏切ったアルヴィンだ。

「アルヴィン……どうして……」
「ん、まあな。そんなことより、今奴らは山狩りに忙しいと思うぜ。飛ぶなら今のうちだ」
「……二重に裏切った、って訳ね?」
 そうそう、とアルヴィンは軽く告げる。大方、私たちは陸路でイル・ファンを目指すつもりだとガイアスに嘘を教えたのだろう。
「アルヴィン、お前とは後で話がある。とりあえずイル・ファンに急ぐぞ」


 ユルゲンスさんが出してきてくれたワイバーンは三頭。先頭を飛ぶワイバーンにはミラとジュードが、もう一頭にはローエンとレイアが、そして最後の一頭にはアルヴィンとエリーゼと私が乗ることになった。
「エリーゼ、ティポを離さないようにね」
「はい!」
 ティポを抱えたエリーゼがアルヴィンに抱きかかえられるようにしてワイバーンを跨ぐ。私はアルヴィンの後ろに乗り。彼の身体に腕を回した。

「行くぞ!」
 ミラの掛け声と共にワイバーンが弾丸のように空へと一直線に突き抜ける。予想以上に風が強くてしっかり掴んでいないと落ちてしまいそうだ。
『ぎゃー! こわーい!!』


 空高くまで昇り詰めて、ようやくワイバーンは加速をやめた。頬に当たる風は冷たいものから穏やかなものへと変わっている。
「わあ……っ!」
 視界にはキラキラ光る大空が広がっていた。霊勢の狭間を飛んでいるからだろうか。暁域から黄昏域に変わるそこを雲の上から見るというのは中々体験出来ないだろう。

「後はこのまま飛べば……うわっ!?」
 風の流れだけに翼を任せていたジュードたちのワイバーンが突然ぐらりと傾いた。
 雲の切れ間から姿を現したのは、私たちの乗るワイバーンよりも大きいドラゴン型の魔物だった。魔物は私たちに向かって威嚇するように吼える。振動がビリビリと伝わってきた。
「どうやらここは縄張りのようですね」
 ローエンが冷静に告げるが、あっちは戦う気満々だ。でもワイバーンの背に乗ったままではまともに攻撃も当たりやしないだろう。

「一回どこかに降りよう! 振り切れるならその方がいいよ!」
「うん! ミラ、進路を取って!」
 彼女は力強く頷き、ワイバーンの手綱を取る。しかし巨大な翼が行く手を遮った。何としてでもこちらを落とそうというつもりなのだろう。
 舌打ちを零しながら私は銃を抜く。

「アルヴィン、あれの後ろに回り込める?」
「ん? ああ」
 アルヴィンがワイバーンの手綱を握って旋回する。魔物はジュードたちの乗っている方に集中しているからか、こちらには気付いていない。
「どうすんだよ、
「後で受け止めてねッ!」
 さっき引き抜いたばかりの銃を一度ホルスターに仕舞い、魔物の背に飛び降りる。背中に違和感を感じたのか、魔物は大きく翼をはためかせて私を振り落とそうとしてきた。
 背の突起に掴まって何とか魔物の顔に向けて手を伸ばす。マナを水に換え、私は魔物の顔を水滴で包み込んだ。
 呼吸を止めてしまえば、どんなに強い魔物だろうと無力になる。息が出来ず苦しいのか、魔物はバタバタと暴れながら急速落下。がくんと揺れた衝撃で私の身体は宙へと振り落とされた。


!!」
 海面へと一直線だった私の腕をアルヴィンが掴んでくれる。宙ぶらりんになった私の身体を下からティポが押し上げてくれた。
「おっま……何やってんだよ!」
「手っ取り早いのはこれかなーと」
「も、もう……っ! わたし心配したんですよ……!」
 アルヴィンのコートを掴みながらエリーゼが告げる。後で謝らなきゃな、なんて思ってたら、空の奥でワイバーンに乗ったジュードがじろりとこちらを睨んでいた。……面倒そうなのはどうやらあっちかもしれない。





2015.06.14 柿村こけら



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