世界の果てでは雨が止む

41:強者

 息を切らせて戦いながら、私たちはなんとか乱戦しているエリアを走り抜けた。この先を抜ければそこはすぐクルスニクの槍の足元だ。

「……ミラ? どうかした?」
「この先から強いマナを感じる。恐らく、ガイアスと四象刃だ」
 ミラの一言で、先日カン・バルクで戦ったときのことを思い出した。あのときは逃げれば勝ちだったから良かったけれど、今回はそうはいかない。勝たなくては槍のところまで行けないから。
 服に染み込んだ泥を絞って、それからガイアスたちのいるであろう開けた場所へと進む。沼のところにはラ・シュガル兵の死体が何体もぷかぷかと浮かんでいた。


「――いた!」
 そこにあったのは三人の姿だった。プレザ、ウィンガル、そしてジャオ。ガイアスの姿はないが、恐らく近くにいるだろう。ミラの姿を見ると、ウィンガルが忌々しそうに舌打ちをする。
「陛下に手出しはさせぬぞ、マクスウェル」
 すらりと剣を抜くと同時に頭の中にある増霊極を起動したらしく、ウィンガルの髪が黒から白へと染まっていく。その隣でプレザは手にした本を開き、ジャオは悲しそうに大槌を構えた。
「ルンティウス グイ イム!」
「あなたとも今度こそ終わりにさせてもらうわね、アル!」

 プレザは自分の術が私に対して効果がないことを知ったからか、それともアルヴィンへの恨みからか、水の矛先を彼に向けていた。エリーゼはジュードと共鳴を繋いでそんなプレザを狙っている。
! 来てくれ!」
「解った! っ、セッシブバレット!」
 ミラと共鳴して、ウィンガルの猛攻を切り抜いていく。私の撃った弾をひらりと避けながら、ウィンガルは憎しみの籠った目でミラに斬り掛かっていた。
「マクスウェル! ウ クウルル ヤイオ! バイバ! 鳳凰天駆!」
「くっ……! やはり強いな、ウィンガル……だが!」
「バアエティ!?」
 ミラが私との共鳴を切る。それを合図に、今度は私がローエンと共鳴した。

「雨よ無数の針となれ! レイニードルッ!」
「唸れ氷狼の牙! フリーズランサー! さん、いきますよ!」
「「サーペントエッジ!!」」
 水竜のような刃が勢いよくウィンガルに襲い掛かる。彼はミラに集中していたせいでそれを避け切れず、防御することも出来ずに攻撃を喰らって膝をついた。

「ウ ワエム イム ムイ ワイムディウティウイム フイディグウヌン ヤイオ……!」
 剣を支えに彼は立ち上がる。そしてすぐに構え直して、ミラに向かってそれを振り上げた。私はローエンと二人でウィンガルの動きを少しでも抑えようと水のバリアを撃ち込んでいく。
「ドゥイ ミティ ウムティンディディオプティ!」
 このぬかるんでいる土地でなんというスピードを出すことだろう。ミラの前から一瞬で私の前まで飛んできたウィンガルの剣を防ぐのはかなり難しい。万事休すか、と思ったときだった。

「深淵の盟約を果たせ! リベールイグニッション!」
 エリーゼの声が戦場に響くと同時に、彼女のいた方向から宵闇を抜き取ったような光線が私たちの間を貫いた。
 ティポがふわふわと私のところに飛んでくる。
『どう? すごいでしょー!』
「は……ははっ、びっくりした……」
『やったねエリーゼ!』
「はいっ! 、今治しますね」
 戦場だというのに、そんなこと気にしないような声でティポとハイタッチを決めてから、エリーゼは私の怪我を瞬時に治してくれた。ちらりと見ればジャオとプレザもまた地面に座り込んでいる。
 プレザに向けて銃を構えたアルヴィンを、ジュードが寸でのところで止めた。ジュードの言葉に諦めたらしいアルヴィンは大人しく銃を降ろし、プレザから離れる。


……どうやら、何とか切り抜けられたみたいだ。
 すぐ近くに座するクルスニクの槍は、やっぱり微動だにしていなかった。




2015.06.14 柿村こけら




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