世界の果てでは雨が止む
44:侵略
エレンピオス兵たちは地面に降り立つと、次々に黒匣兵器を構え、その先をミラに向ける。ミラは目の前にある大量の黒匣を忌々しそうに見ると、剣の柄を握り込んだ――のだが。
「……寝ていろ。事態が複雑になる」
ガイアスが彼女の腹部を殴り、動きを止めさせた。そのまま崩れ落ちたミラをローエンに向かって投げる。
「お前たちとの決着は後だ。奴らの狙いはマクスウェルのようだ、ここは退け」
ガイアスはそう言いながら手にした長刀で次々にエレンピオス兵を薙ぎ払う。いつの間にか合流していた四象刃の三人も攻撃に加勢していた。
「っ、エリーゼが!」
爆発の衝撃で倒れていたエリーゼを見れば、そこには彼女からティポを奪い取ろうとしているエレンピオス兵の姿があった。もう増霊極のデータは抜いたんだから彼女に用はないはずなのに。
走ろうとしたところに、おじさんの方向からセルシウスの氷が飛んでくる。余計なことをするな、彼の目はそう言っていた。
「そのガキも連れていけ。増霊極の適合好例だ」
「エリーゼ!!」
「わしに任せておけ!」
大槌を振り回しながら突進していったのはジャオだ。巨体から伸びる太い腕は巨大な黒匣兵器をいとも簡単にひしゃげさせていく。勢いを緩めずに気を失っていたエリーゼに近付くと、その小さな身体を優しく抱き起こした。
「ジャオさん!」
ジャオの背に斬り掛かろうとしていた兵士をジュードが横合いから蹴り飛ばす。アルヴィンも銃を抜いたので、私も精霊術を展開させた。あっという間に周囲のエレンピオス兵はいなくなる。
「……わしは娘っ子にどうしても話しておかなければならないことがある。ほんの少しでいい。時間をくれぬか」
「解りました」
目を覚ましたエリーゼは目の前の巨体に驚いた。左手からティポが飛び上がって叫ぶが、ティポの言葉を遮ってジャオは話し始める。
「わしは謝らなければならないことがある」
「ジャオさん……?」
「お前さんの殺された両親だが……実は殺した野盗ってのは……わしだ」
エリーゼの目が大きく見開かれる。ジャオはその反応を見て、更に何か告げようとした、のだが。
「ジャオさんっ、危ない!」
ジュードの手は届かず、黒匣兵器から放たれた光の矢が彼の巨体を貫いた。ごふ、と血を噴きながらも彼の穏やかな目はただエリーゼを見続けている。
「これ以上お前を見守ることは出来んだろう……だから、生きてくれ」
「……ジャオ……さん」
それを聞いて、彼は立ち上がる。全身から血を流しているというのに。
エリーゼを振り向かず、ジャオは私とジュードの前まで来るとぽつりと告げた。
「エリーゼのこと、頼んだぞ」
いつも娘っ子、と名前を呼ばずにいた彼が、優しい声音で少女の名を告げる。それが彼なりの覚悟の現れだったのだろう。彼はそのままガイアスの元へと向かっていく。死を覚悟した瞳だった。ガイアスはそんなジャオの瞳を見てから深く頷く。
「長年、世話になった」
「皆を頼みます」
大量のエレンピオス兵に向かって、巨躯が駆け出していく。
私はエリーゼの手を取って走り出した。――ジャオと逆の方向に向かって。エリーゼの代わりにティポが彼の名前を呼ぶ。この声は果たして彼に届いているのだろうか。
背後の爆発が爆風を引き起こし、私たちの身体は吹き飛ばされる。今はローエンがいないから、霊勢を地場に変えることが出来ない。
着地した先は流沼で、私たち四人は為す術もなく水の中へと引きずり込まれた。
2015.06.21 柿村こけら
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