世界の果てでは雨が止む

45:凍窟

「……っ!」
 肌を突き刺すような寒さで目を覚ます。そうだ、流沼に飲まれて――どうなったんだっけ?

「流されて雪原の方まで来ちまってたんだよ。泥とか飲んじまったみてーだし」
「……アルヴィン。他のみんなは?」
「解んねえよ。気を失う寸前に掴めたのはの腕だけだったからな。……都合いいから聞くけどよ、ジランドは何をするつもりだ?」
 ぐい、と私の腕がアルヴィンに引っ張られる。場所が場所だからか、彼の口からは白い吐息が零れていた。

「私だって全部聞いた訳じゃないけど……異界炉計画。おじさんはそれでエレンピオスを救って……えっと、何だっけ? あっちのお偉いさん。そこに恩を売ろうとしてるの」
「あんな計画本気にしてんのかよ!? リーゼ・マクシアがどうなるのか解ってんのか!?」
「解ってるよ……私、別に異界炉計画に賛成した訳じゃないし。何度も言ってるけどさ、私はエレンピオスに帰れるのならそれでいいの」
 私の口からも白が零れる。

 このまま話していたって埒が明かない。冷たい地面から立ち上がる。
「……おい、。話はまだ……」
「歩きながらでいいでしょ。動かないと寒くて死んじゃいそう」
「よく言うよ」
 私が寝かされていた場所にあったアルヴィンのスカーフを拾い上げる。汚れてはいないが、流沼で濡れたせいで凍っていた。
「……ありがと」
「どーいたしまして。じゃあ姫とジュード探そうぜ」
「うん」


 蔦を使って上り下りしながら、私たちは沼野ではぐれてしまった二人を捜すが中々見つからない。もしかしてあっちも目が覚めて動いているのだとしたら会えないのも当然か。
、これからどうすんだよ」
「……ミラはともかくとして、ウンディーネとの約束は守るよ。槍から四大を解放する。別に私は何発もあれを使いたいつもりじゃないし……ミラを殺さなくたって、断界殻をちょっとだけ開けて、私たちを向こうに帰してくれるならその方がいいよ」
「けど、ジランドはそんなこと思ってねーだろ」
「……解ってるよ! そんなこと解ってる……ッ、でも、今はおじさんしかいないんだもん! お母さんもお父さんもいないんだから……!」
 いくらエリーゼに偉そうなことを言ったところで、私はその現実を抜け出せない。弱いままだ。意志も信念もない、ただの非力な人間。

「俺だって解らねえよ」
「アルヴィン……?」
「どうすりゃいいのか、なんて。母親をあっちに帰してやりてぇ、その一心でアルクノアとして行動してきた。俺たちだって、と同じだよ。ジランドの望む異界炉計画を、俺たちは望んでねーっつーのにな」
「……そう、だね。ごめんアルヴィン、私……」
「お前はまだガキなんだからいーんだよ。俺に合わせようとすんな」
「ガキじゃないもん……って、あ!」
 凍窟の奥、一人の少女がとぼとぼと歩いていた。寒いからか、手にしたぬいぐるみを抱き締めている。

「エリーゼ!」
 彼女は私の声に気付くと、ぱあっと顔を明るくして走ってきた。その小さな身体をぎゅっと抱き締める。
と……アルヴィンも、無事だったんですね!」
「うん。エリーゼも無事でよかった。ところでジュードは一緒じゃないの?」
『ジュード君? 見てないんだよぉ〜……でも、たちに会えてラッキー!』
 ティポが嬉しそうにくるくると回る。
 アルヴィンの提案で、ひとまず入口の方まで戻ってみようということになった。もしかしたらジュードもこちらに向かって歩き出したところかもしれない、ということで。




2015.06.21 柿村こけら



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