世界の果てでは雨が止む
46:水竜
入口に向かって歩いていると反対側から足音がした。ジュードかと思ったが聞こえてきた足音は五人分。ミラたちと合流していたのだとしても数が合わない。
「……エレンピオス兵だな。っと、その奥……ジュードもいるぜ」
アルヴィンに告げられて奥の方を見れば、エレンピオス兵に気付かずにこちらへ歩いてくるジュードの姿があった。ジュードと――それから、宙に浮かぶ髪の長い女性。あれは一体誰だろう。人間じゃなさそうだし……精霊?
疑問に思ったのは私だけではないのだろう。アルヴィンは不思議な顔をしながらも腕をにゅっと伸ばすとジュードを壁の陰に引きずり込んだ。
「ん、んーっ!?」
「俺たちだよ」
「……アルヴィン、それにとエリーゼも……」
彼の目は不審そうにアルヴィンを見ていた。まあ、また裏切られたような感覚なのだろう。それにしたら私だって同罪――いや、アルヴィン以上だ。
そんな軋んだ空気に耐えきれなくなったのか、エリーゼの腕を抜け出してティポがジュードの周りをふわふわと飛ぶ。
『ジュード君、それ誰ー?』
「えっと、彼女はミュゼっていって……見ての通り精霊で……」
ちらり、その姿を見る。まあ精霊なのは見りゃ解る。浮いてるし。
「マクスウェル様の命で参りました」
「ふーん。ミラの命令でねえ」
アルヴィンはじろじろと彼女を見遣る。ミラの命令で? でも彼女が指揮する精霊なんて四大以外には見たことない。それにミラはあのときガイアスに眠らされて身動き一つ出来ずに撤退したはずだ。
けれど現状を受け入れなくては進めない。ミュゼも同行するということを了解して、私たちはエレンピオス兵に見つからないよう歩き出した。
「他の連中も無事に逃げてるといいんだが……ん、何だよ二人とも?」
「アルヴィンは……やっぱりアルクノアの一員だったんでしょ」
言いながらジュードは私のこともちらりと見た。「アルクノアのジランドさん」。降り立ったエレンピオス兵はそう言ったのだ。今のところ私たちはアルクノアの仕事を請け負ったことのある傭兵、程度にしか言っていなかったけれど、第三勢力として突然現れたアルクノアとエレンピオスに私たちが加担していたと考えるのは無理なことではない。むしろ自然だ。
「僕だって、とアルヴィンのこと信じたいよ。でも、一度に色々なことが起きて何が何だか解らない。ミラでさえ解ってなかった。一体、どういうことなの?」
歩きながら私たちはお互いを見遣る。どこまで言っても平気か、そんな探り合い。やがてアルヴィンが溜息を一つ零した。
「そう責めるなよ。俺もジランドに聞かされてないことばっかで、ショック受けてんだぜ?」
「ジランドに?」
「そうだよ。ま、とにかく。マジで俺も混乱してるんだ。何かクール系の美人がジランドについてて、ろくに話も出来なかったしな」
「ああ、あの……」
ちょうどこの場所にぴったりな、氷を操る精霊だ。私も詳しいことを全部聞いた訳じゃないけど、少なくともアルヴィンよりは知っている。言いはしないが。
「確か、セルシウスって――ッ!?」
ジュードが言いかけたときだった。凍窟に響く轟音。極寒の世界の最奥、巨大な二頭の竜がこちらを睨んでいた。
『あーっ……さっきエリーゼが術ぶっ放したヤツだ!』
「エリーゼそんなことしてたの!?」
「む、無我夢中だったんです……!」
どうやらそのことが逆鱗に触れたらしい。確かあれはアクアドラゴン。水を自在に操るドラゴンだ。
「来るぞ!」
こちらが構えたと同時に、二頭から立て続けに激流が放たれた。すごい水圧のそれは、天井から下がる氷柱を叩き折りながらこちらへ向かってくる。でも水は水。いくら勢いがあってもそれは変わらない。
「!?」
プレザと戦ったときのように、私は激流を受け止めた。流石にこの膨大な量の水をマナに還元するのには手間が掛かる。でも、出来ないわけじゃない!
水を全て吸収されたことで竜たちは驚いているようだった。そりゃまあそうだろう。悪いのはドラゴンではなく、彼らの縄張りを荒らした私たちだ。
乗れそうな氷の塊を選んで私はドラゴンへ近付く。同じ水のマナを持つものだ。ウンディーネ本人ならこれくらい配下にすることすら容易いだろう。
「騒がしくしてごめんなさい。ここを通りたいだけなの」
指先から水のマナを放ちながら告げる。どうやら敵意がないことは伝わったらしく、二頭の竜は氷柱の向こうへ消えていった。
2015.06.21 柿村こけら
Prev / Back / Next