世界の果てでは雨が止む
63:夜光
かつてラ・シュガル兵しかいなかった夜光の王都イル・ファンには、ア・ジュール兵の姿がちらほらあった。とても戦争していた国同士だとは思えない――いや、戦争していたからこうなっているのか。
あんなことがあったせいか、いつも静かな夜の街はどこか慌ただしかった。
「ガイアス、どこにいるんだろ。やっぱりオルダ宮かな」
「でもなんかオルダ宮はガイアスの雰囲気じゃないよね……って、ねえローエン、あっちが何だか騒がしくない?」
レイアが指差した方を見れば、なるほど確かに人々が走っていたり焦っていたり、何だか様子が変だ。
「行ってみよう」
走り出したジュードに続いて私たちは騒ぎの中心へ向かう。ガツン、という大きな物音。広場の真ん中にいたのは、全身を武装したエレンピオス兵だった。
「エレンピオス兵!?」
「今や珍しいことではありません。兵は各地に出没しています」
「各地って……それって、ジランドがいなくなったせい?」
「それもあるでしょう……それに……」
ローエンの言葉を遮るように兵士は大きな武器で地面を殴った。相当荒れているようだ。……怯えてる、といった方が正しいかもしれない。
「き、貴様ら! 俺に近付くな! ただでは済まさんぞ!」
「もしかしてミュゼのせい?」
「ええ。断界殻の存在を知ってしまったが故にミュゼさんに追われ、その上エレンピオスへは帰れず、リーゼ・マクシアで頼るべきアルクノアは壊滅。見知らぬ土地で一人ですからね……」
「うん。……でも、暴れさせる訳にはいかないよ」
ナックルを構えたジュードが兵士を見る。兵士はリーゼ・マクシア人そのものを嫌悪しているようだった。
「ジュード、ここは私に任せてくれないかな」
「え? でも……」
「大丈夫。逃がす訳じゃないよ」
荒い息を零すエレンピオス兵に向き合いながら私は双銃を引き抜いた。精霊術は使わない。彼だって私と一緒なのだ。
「ぐるわああああ!!!」
「ッ、遅い!」
とん、と地面を蹴って兵士の突進を躱す。足元に放った銃弾が見知った武器だと感じたのか、兵士は驚いたようだった。
「チャージバレット!」
「ぐあっ!?」
鎧に弾を受け、兵士はその場に倒れ込む。私は銃をホルスターに仕舞うと、まだ意識のある彼に歩み寄った。
「っ、うぐ……ぅ」
「落ち着いて。私もエレンピオス人よ。ジランドおじさんの部下で、アルクノアにいたの」
「何……!?」
「リーゼ・マクシア人のことが怖いんでしょう? みんなそうだったから知ってる。でも、今は我慢して。私が絶対にエレンピオスに帰る方法を見付けるから」
「だが、しかし……アルクノアや……クランスピアとの連絡は、もう……」
クランスピア……確か、エレンピオスにあるおじさんが連絡を取っていた組織の名前だったか。今は連絡も取れないようだが。
「大丈夫だよ。だって私たち、二十年もエレンピオスに帰るために頑張ったんだから。絶対に帰りましょう。だからそれまで待っててください」
きっと彼も、エレンピオスに家族がいたりするのだろう。リーゼ・マクシアとエレンピオス。その両方を知っているアルクノアだからこそ、見えるものがあるはずだ。
「――こっちです! エレンピオス兵が……!」
がしゃん、と鎧の揺れる音。ラ・シュガルだかア・ジュールだかの兵士が彼を連行しに来たのだ。
「信じても、いいのか」
「信じてください。私だって、帰りたいんだもの」
彼は笑ったように見えた。
やがて現れた兵士が、彼の両腕を押さえ込んで連行していく。兵士たちの来た方から現れたガイアスは、嫌なものでも見るような目でこちらを睨んでいた。
2015.06.25 柿村こけら
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