世界の果てでは雨が止む

71:断罪

「アルヴィン」
 崩れ落ちた地面の端に膝をついた彼は、ただ何も言わずに下を見ていた。プレザが落ちていったそこを。
 アルヴィンは何も言わない。どうすればいいのかずっと迷っているみたいだった。アグリアを撃った――いや、レイアを撃った、あのときから。

「アルヴィン!」
「……何だよ」
「ミュゼに聞いたよ。私たちのこと、死んだことにしてくれたんでしょう」
「そんなことかよ」
 吐き捨てるように彼は言う。どうしてそう、後ろ向きなんだろう。アルヴィンの隣に座りながら彼の横顔を見る。寝ていないのだろうか、目の下にはクマが出来ていた。

「そういや、お前」
「うん?」
「大丈夫だったのかよ……その、身体の、こと」
「もう平気。ああやって精霊術を使い続けたらまたああなるかもしれないけど……」
 今まで十八年間隣にいたはずのアルヴィンに投げる言葉が上手く見つからない。私はいつだって貰ってばかりで、与えることなんて――……いや、私まで後ろ向きになってどうする。

「アルヴィン、
「あ、ジュード」
 さっきまでレイアのところにいたジュードがこちらに歩いてくる。ジュードの顔を見辛いのか、アルヴィンは焦茶色の目を逸らした。
「これからどうする気? 行くところあるの?」
「聞いてどうすんだよ……」
「僕たちと行こう」
 ジュードの手がすっと差し出された。ハ・ミルと同じだ。私のときと、一緒なのだ。

 アルヴィンはその手を取れずにいた。まだ迷っている彼は、ちらりとローエンと話し合っているレイアを見遣る。
「正直に言うと、レイアのこともあるけど……でも、アルヴィン。一緒に来てよ。また前見たいに、僕ややレイアたちと一緒に行こう?」
「だが――……」
「深く考えすぎなのよ、この裏切りマスター。……私だって迷ってる。けど、前に進むためには、歩き出さなきゃ意味ないのよ」
……お前俺たちのこと殺そうとしときながら逆によく前向きになれんな……」
「それはそれ、これはこれ! ……あ、エリーゼ」
 乾いた笑いを零すアルヴィンに、ティポを抱いたエリーゼが近寄ってくる。その双眸はアルヴィンへの不信感に満ち溢れていた。
『ジュード、ぼくはアルヴィンやだよー! また裏切られるー!』
「……エリーゼは正直だな」
 ローエンに相談しに行くのか、ジュードはエリーゼの肩を軽く叩いてローエンとレイアの方へ歩いていく。残されたエリーゼは私とアルヴィンを交互に見て、それからぷくっと頬を膨らませた。

「あいつ……あんな大人みたいなマネするようになったんだな。きっと本気で俺を嫌ってるんだろうな」
「そうですよ。わたしもキライです!」
 そっぽを向いたエリーゼに代わって、ティポが目を細めてアルヴィンを睨んだ。ジュードに呼ばれて、彼女は走り去ってしまう。


「……アルヴィン、行こうよ」
「……おう」
 今度は伸ばした手を取ってくれた。捨て犬のような彼は私の手を握ったままだ。昔は逆だったのに。私がアルヴィンに手を引かれて、彼の後ろをついて回っていた。
 不思議なマナを孕む穴の前でジュードたちは待ってくれていた。アルヴィンの背を押すと、彼はどうしようか困りながらも、やがていつもみたいな軽口を叩いた。
「……何その声」
「意識すると、いつもの俺の調子って難しいんだな」
 当然でしょ、と呆れたようにレイアが告げる。けれど、ある程度は受け入れているようだった。


「――それじゃ、行こうか」
 ジュードがキッと青黒い穴を見る。そこから出ているマナが膨大な量だということは嫌でも解った。――この先に、精霊界に通じる何かがある。
 全員でその穴に足を踏み入れる。ずん、と重い力に沈められながらも、私たちは奥へ奥へと進んでいった。




2015.06.27 柿村こけら



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