世界の果てでは雨が止む

79:雷神

「ジジ……ガガ……」
 ぱちぱちと電気を放つ球体は、こちらに気付いたのかぐらぐらと揺れ始める。ワンテンポ置いて、一際大きな雷が弾けた。

「ヴォルトって雷の大精霊なの!?」
「そうみたいだね。うーん、私相性悪そう」
「感電しねーようにな! 行くぞジュード!」
 大剣を引き抜いてアルヴィンが走り出す。相手が雷の精霊ならどうにも私は感電してしまいそうなので、今回は後衛に徹することを決め魔法陣を描いた。
「穿て、大いなる奔流! アクアゲイザーッ!」
 ジュードたちの間を縫うように水が一直線に走り抜ける。私の放った一撃はヴォルトにヒットしたものの、やはり相性が悪いのか大したダメージは与えられていないようだった。

「ジジ……!!」
「一度動きを止めさせた方がいいだろう。!」
「うんっ!」
 剣を片手にバックステップをしてミラが私の隣まで戻ってくる。そして私と共鳴すると、そのまま詠唱に入った。
「光牢閉鎖、永劫を収監し刹那に帰せ!」
「永久凍土に堕ちる棺!」
「「ケオティックフューザー!!」」
 ミラの光と私の氷がヴォルトの周囲をぐるりと取り囲む。まるで檻のようになったその隙間から水色の光が飛び出して、彼の四肢をその場に打ち付けた。

「よしっ!」
「ありがとう二人とも! 来てアルヴィン!」
「任せろ!」
「「――リフレクトボミング!!」」
「ジジッ……!! ……ガガ……」
 四方を囲む壁の中に、ジュードとアルヴィンの共鳴術技が落とされた。速度を得た火球は勢いよく爆ぜて、囲いの中でぷすぷすと床を焦がす。
「やった……のかな」
 私とミラが共鳴を切ると檻は消えた。そこには倒れているヴォルトの姿。思い切り攻撃を受けただけでなく、注ぎ込まれていたマナが尽きたのも倒れた原因だろう。おじさんとセルシウスの関係と違い、ヴォルトは起動分のマナしか注ぎ込まれていないようだから。
 レイアが悲しそうに反応のないヴォルトを見遣る。かつてセルシウスを見ていたのと同じように。


「決したか」
 突然の声に振り返ればガイアスとミュゼがこちらを見ていた。
「ガイアス。ヴォルトを動かしたのはあなたでしょ。あなたも……源霊匣の可能性に気付いていたの?」
「可能性? 俺はそのようなものの上で民を生かすつもりはない。ジュード、俺が源霊匣の使役を試みたのは、お前の考えそうなことだったからだ。だが、無駄だった。到底これは人に御しきれるものではない。やはりこの世界の黒匣を一掃するほか術はないようだ」
 淡々とガイアスは告げる。その選択が間違いっていないと心の底から信じているのだろう。黒匣を無くし、異界炉計画を止め、そのままエレンピオスを滅ぼすという選択を。
「間違ってるよ、ガイアス!」
「何が間違っているというのだ! 断界殻を維持し、黒匣を全て破壊した後に世界を一つに戻せばいいだろう!」
「黒匣がないと私たちは生きていけない! その世界で『弱い者』になるエレンピオス人のこと、本当に考えてるの!?」
「苦しむ弱い人間は、ガイアスが守ってくれるわ」
「――どんな理想も、人の気持ちを無視して押し付けたら意味ないよ。人が自由に生きるために! 黒匣は必要なんだ!」
 私の言葉を引き継いでジュードが叫ぶ。黒匣のない世界では、人間同士の中は絶対に良くなる訳がないなんてこと明白だ。形だけの平和なんてあっても仕方がない。

「……ジュード、お前の言葉は可能性だけを語る恣意的なものに過ぎんぞ」
「そうかもしれない。でも、やめる訳にはいかない」
 ジュードに睨まれて、ガイアスが小さく舌打ちを零した。それからくるりと後ろを向いて、そのまま歩き出してしまう。ミュゼの作った空間の裂け目に彼は消え、後には私たちと静かになったヴォルトだけが残された。




2015.06.27 柿村こけら



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