世界の果てでは雨が止む

80:発見

「それで、バランさんはどこにいるんでしょうか」
「ここが研究棟だけど、いなかったよね……って、あぁ!」
 突然レイアが大きな声を上げる。彼女の指差した方向を見てみると、外壁の途中でエレベーターが停止していた。その中にはバランさんと数名の研究員たちの姿がある。どうやらヴォルトとの戦いもあそこから見ていたらしい。

「でも、どうして止まったままなんだろう」
「多分だけど、ヴォルトの放電で施設の電源がイっちゃってるんだと思う。あの上に発電塔があるから、あそこから電気を送ることが出来ればエレベーターも動くと思……ッ!!」
 話している途中に、エレベーターががたんと大きく揺れた。幸いにして落下することはなかったが、かなり不安定な状態だ。

「じゃあ、電気を供給出来ればあれが動くんだね?」
「う、うん。多分だけど……って、ジュード! 何を……」
「あれを――ヴォルトを使役するんだ。可能性はゼロじゃないから……」
 彼が冗談を言っていないことなんて解っている。電気供給が死んでいる今、電気を生み出せるのはヴォルトだけなんだってことも解っている。けれどあれは……源霊匣は、使用者の命を削る場合だってあるのだ。私はそれをよく知っている。
「……大丈夫、死んだりしないよ。と約束したしね」
 にこっと笑って、ジュードはヴォルトの宿った化石を装置に嵌め込んだ。


「力を貸して……ヴォルト!」
 ジュードがマナを放出すると、倒れていたヴォルトがゆっくりと起き上がる。ノイズの混じったような声を上げながら雷の精霊はまた放電を始めた。雷は近くに落ちていた導線を伝って隣の発電塔へ流れていく。
「やったか!?」
「ダメだ、まだ足りない!」
「っ……お願い……もう少しなんだ!」
 ジュードが更にマナを込める。装置がオーバーヒートを始めたのか、ジュードの両手の間から煙が上がり始めた。このままじゃ手が焼けてしまう。
「っ、うわあああ……っ! くっ……まだ、だよ……!」
 その呟きに応えるようにヴォルトの威力が増す。発電塔の電気が輝き出した。もう少しだ。

「一人で無茶しないでよ……っ!」
!?」
 装置に手を触れた瞬間、ばちんと電流が身体を駆け抜ける。でも、それでも絶対にこの手を離す訳にはいかなかった。

「二人でかっこつけないでよ、もう!」
『ぼくたちも手伝うよ〜!』
 他のみんなも私たちの近くに寄ってきて、装置にマナを注ぐ。痛みに耐えながらもマナを注入していると、ばんっと大きな音がした。エレベーター内部の明かりが点いている。そしてエレベーターはゆっくりと動きだし、地面に到着した。それを視認して私たちは装置を手放す。
「ジジ……ガガ……」
「ありがとう、ヴォルト」
 マナの絶えたヴォルトは化石に戻ったのか姿を消した。


「バランさんのところに急ごう」
 装置を持ったままジュードが来た道を引き返す。エレベーターのところまで行くと、中に乗っていた人たちが出てきているところだった。
「助かったよ、ありがとう。あのヴォルトを使役するなんて凄いね」
「いえ、そんなことは……あ、バランさん。一緒に乗っていた人たちは?」
「全員無事だよ。もちろん、みんなの源霊匣もね」
 女の子の傍にいた小動物のような源霊匣がエリーゼに近寄ってくる。アニマルセラピーのようなものなのだろうか。その小動物はとても人懐っこかった。
「かわいいですねー。でも、力は微精霊くらいに感じます」
「そりゃそうだ。微精霊の源霊匣だからね……ってあれ、もしかして源霊匣がどうやって生まれてるか知らないの?」
「そういや……誰も知らないな。も聞いてねーのか?」
「うん。気付いたときにはもう、セルシウスの使役に成功してたから」
 そう告げればバランさんは少し驚いたようだったが、小動物を抱き上げながら説明してくれる。

「細かいことを抜きにして簡単に説明すると、精霊の化石あるだろ? あれに君たちリーゼ・マクシア人がマナを注ぐと源霊匣が生まれるんだ。ただし、増霊極が必要になるけど。それで精霊の化石に宿っている術自体が実体化する。それが源霊匣だよ」
「黒匣とどこが違うんだ?」
「術の精度が雲泥の差。昔あった医療算譜法くらいの精度が出るんだ」
 その言葉に全員が一斉にミラの足に装着された「医療ジンテクス」を見遣る。それの持ち主――ディラックさんがエレンピオス人であることを知っていたのは私とアルヴィンだけなのだ。

「それってつまり、源霊匣は精霊を殺さないってことですか? 前もちらっと聞いたんですけど」
「うん、まあね。精霊の化石に溜めたマナを使っているから」
「……!」
 ジュードの顔がぱあっと明るくなる。精霊を殺さずとも力を得られる源霊匣が普及すれば――それは、ジランドおじさんも言っていたことだけど。確信を、やっと持てた。

「見付かった?」
 なすべきこと。そう問えば返ってきたのは、眩いばかりのジュードの笑顔だった。




2015.06.27 柿村こけら



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