世界の果てでは雨が止む

82:荒野

 たっぷり休息を取った私たちはバランさんに教えてもらった出口からルサル街道へと出た。荒れた街道は歩く度に砂埃が舞って、リーゼ・マクシアのボルテア森道が何だか恋しくなった。

「しかし……源霊匣を黒匣の代わりにって言っても、実際は大変だよな。数だけでも一体何個作ればいいのやら」
「製造ラインを丸ごと変えることになるよね。エレンピオスはほとんどが黒匣で動いているんだから」
「うん。まずは源霊匣の研究に始まって、製造、普及……何より、世界中に理解を求めなきゃいけないしね」
「二千年間ずっと使ってきた仕組みを根底から変えるんだもの。それなりに時間が掛かるのは仕方ないよ」
 マクスウェルが見限った世界を、マクスウェルに再び認めてもらう必要がある。それに二千年も掛けていられない。長引かせた分だけ精霊が死ぬ。

「時間は私が稼ぐ。マクスウェルが言っていただろう、断界殻を解放すれば断界殻のマナによってかなりの時間的猶予が生まれるはずだと」
「ミラがそれをやるの?」
「……そうだ。だがそれよりも今はガイアスだろう。あの男を止めなければ猶予も何もない」
 ジュードの問いを早々に打ち切って、それから彼女はだんまりだった。


 やがて私たちが目覚めた場所が見えてきた。そこには私たちを吐き出した世精ノ途への裂け目があったが、来たときよりも随分小さくなっている。
「どうやら消え掛かっているようだ。うまく飛び込めばリーゼ・マクシアに戻れるかもしれないが、いちかばちかになるな」
『危険だよー! これじゃ帰れないねー!』
「今すぐ飛び込まなくちゃいけない訳でもないし、一度街に戻って他にも方法がないか考えてみようよ」
 レイアの提案に、ジュードを除く全員が頷いた。さっき研究所で源霊匣開発の実態を見てからというものの、ずっとこの調子だ。

「トリグラフを出る前に言ったよね。僕の提案について考えて欲しいって。さっき研究所で色々なこと知って思ったんだ。もうガイアスとの衝突は避けられない。だから僕はこれから僕がなしたいと思ったことを貫くために、ガイアスと戦う」
「……ガイアスと戦う気がないなら、この裂け目が閉じる前に考えろってことね?」
「うん。みんなにはみんなのなすべきことがあると思う。だから僕は、一時の感情に流されて本当の気持ちをごまかさないで欲しいんだ」
 彼自身は一人だってガイアスと、そしてミュゼと戦うつもりなのだろう。彼らに源霊匣を認めさせて、マクスウェルと約束した未来を作るために。

「私の答えは決まってる」
……」
「エレンピオスをガイアスに渡すつもりはないよ。だってそれじゃ、逆異界炉計画だ。私は源霊匣を信じてみたい」
 それからミラも頷いた。
 だけどまだエリーゼたちは決心がついていないいようで。だって相手はあのガイアスだ。それにミュゼの力がどれだけかなんて全員知ってる。その場のノリで敵にするような奴らじゃない。


「とにかく一度、トリグラフへ戻りましょう」
 小さくなった裂け目を振り返りながらもローエンやエリーゼが来た道を引き返し始める。
 だけどミラはまだそこにいた。
「一時の感情に流されるな、か……」
「ミラ?」
「あ、ああいや、何でもないよ。行こう」
 ミラはレイアを追って小走りに先へ行ってしまう。そんな彼女の足から、何かがころんと落ちた。

「……これって」
 落ちたそれ――ミラの使っている医療ジンテクスに嵌められた精霊の化石――を拾ったジュードは、夕暮れのトリグラフに帰ろうとするミラを心配そうに見ていた。




2015.06.27 柿村こけら



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