世界の果てでは雨が止む
85:救済
……寝付けない。
明日には全てが決まるのかと思うと眠れやしない。そう考えているのは私だけではないようで、エリーゼもレイアもミラも部屋に戻ってきていなかった。
休憩は取れるときに取っておくべきなんだけどな、と思いつつ薄い掛け布団を退けて床から起き上がる。ちらりと窓の外に目を遣れば雪が降っていた。ああ、だからやけに静かだったのか。
ちょっとその空気でも吸ってこようと部屋を出る。玄関に向かったところで、ちょうどドアが開いて頭に雪を乗せたエリーゼとティポが入ってきた。
「あ、!」
「外に行ってたの? 寒くなかった?」
『だいじょーぶ! それより、ちょっとしゃがんでよー』
ティポに言われてエリーゼの目線までしゃがめば、ちゅ、と軽いリップ音が耳朶を打つ。
「わたしからのお礼です。っ、おやすみなさい!」
『おやすみぃ〜』
言うが早いか少女は部屋の奥へと走って行ってしまう。彼女の口付けを落とされた頬にそっと触れる。いつの間にあんなに積極的になったんだか。ガンダラ要塞で出会ったときは、ティポがいなくて泣いていたのに。
少し火照った頬をむにむにと弄りながら白銀の世界へ出る。雪を見るのはカン・バルクぶりだ。あまり長くいるのはやめよう、風邪引いたら嫌だし。
マンション前のブランコにアルヴィンが座っているのを見つけ、私はそちらまで歩いていく。私に気付いた彼は隣のブランコに積もり始めた雪を払った。
「どうしたの、しんみりしちゃって」
「いやー、ガキばっかどんどん大人になってくなって思ってさ」
「アルヴィンだって変わったじゃん」
ブランコに座って、大きいくせにやけにコンパクトになった幼馴染みに告げる。
「俺が?」
「うん。もう見付けたんでしょ、居場所。私たち根無し草の傭兵だってのに、すっかり根を張っちゃったね」
「……それくらい、居心地良かったんだろ。あいつらと一緒にいるの」
ブランコを漕げば、少し錆び付いた鎖がギィギィと鳴った。雪はまだ降り続いている。黒いトリグラフを塗り替えるかのように。
「あっちこっち色んなところ行ったけどさ、楽しいなんて思ったの本当に久し振りなんだ。世界の命運懸かってんのにな」
「いいんじゃない? ジュードも行ってたじゃん、本当の気持ちをごまかすなって。楽しいならそれで良いんだよ。その楽しい気持ちを続けていくために私たちは戦うの」
「……やっぱ、大人になったわ」
ギィ、とアルヴィンの乗ったブランコも揺れ始める。
「きっと俺やジランドといたままだったら、そんな風に笑うことなんてなかったぜ。ジュードやエリーゼのお蔭なんだろうな」
いつの間にかアルヴィンの漕ぎ始めたブランコが私より高いところに到達していた。彼の言う通り、ジュードやエリーゼと会うことがなければ、私はこんなに積極的に物事に関わろうとしなかっただろう。……エリーゼのこと、言えないな。
「そういやさあ」
「んー?」
「優等生とキスしてたじゃん。何か進展あった?」
「ぐぶッ、んむ!?」
突然の質問に思わず噴き出してしまい手が鎖から離れた。ブランコから思い切り落下したけど雪がクッションになってくれたから幸いにも怪我はない。
「な、アルヴィン、何を、」
「の兄貴分としては心配な訳よ。大切なに何かあったらジランドの奴に顔向け出来ねーしなー」
「アルヴィンがおじさんに向けられる顔なんてある訳ないでしょ!!」
「反応するところはそっちじゃねえよ! ……で? どーなんだよ、実のところ」
お兄さんに言ってみ? と口元を緩ませるアルヴィンを睨み、スカートについた雪を払ってから私はもう一度ブランコに座り直した。
ジュードのことをどう思っているか? ……そんなの。
「解んないよ」
「が大人になったってさっきの台詞やっぱナシな。お前やっぱりまだ子供だよ」
「何よもう……でも、本当に解らないんだよ。私は確かにジュードに色々と助けてもらったけど、それとこれとは話が別だし、それに……」
「ストーップ。俺はもう戻るから、その先は本人に言ってやんな。おーいミラ様!」
アルヴィンが手を振ったと思えば、チャージブル大通りの方から歩いてくるミラとジュードの姿があった。
「話終わったならジュード君は置いて中行こうぜ。ココア作ってやるから」
「む、本当かアルヴィン」
「こんなしょーもないことで嘘吐いてどうすんの。じゃ、後はお二人でどーぞ」
じゃーな、と手を振ってアルヴィンはミラと二人でマンションに去っていく。お節介な親戚のおじさんって感じだった。
2015.06.27 柿村こけら
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