世界の果てでは雨が止む
87:別離
「よく眠れた?」
昨日ジュードと色々なことを話したブランコの前で、彼が集まった全員に問い掛けた。エリーゼとレイアとローエンはちゃんと答えを出したらしい。三人の顔は晴れ晴れとしている。
「ジュード、ミラ、わたし一緒に行く。理由はいちいち言わないからね」
「わたしも行きます」
『もちろん、ぼくもねー』
「私もご一緒します」
「みんな……」
そんな三人を見てから、アルヴィンがちらりと私を見て口を開く。
「唯一この世界で生きてた人間としては、傍観決め込む訳にはいかないってね」
「あ、アルヴィンずるい。じゃあ私は唯一のアルクノアとして頑張らないと」
「お前、自虐も大概にしろよ……」
「自虐じゃないよ。……おじさんの分も生きるって決めた証」
リーゼ・マクシアをも救うのは彼の意志に反するかもしれない。でも、私はジランドおじさんの完全コピーじゃないから。ちょっとは私の考えも混ぜさせてもらう。
それからジュードがガイアスから受け取ったというナイフを全員に見せ、私たちは見送りもないままトリグラフを出て、もうかなり小さくなっている裂け目へと向かった。
「さ、ジュード。出発前の掛け声よろしく」
「それじゃ……みんな! 絶対にやり遂げよう!」
拳を突き上げたジュードに合わせて、全員がそれに倣う。ナイフによって広げられた裂け目の奥はどす黒く、なんだかうねうねしていた。
「わたしが一番!」
「あ、ずるいです!」
先陣切って飛び込んでいったレイアを追うように、エリーゼがアルヴィンに飛び付いて裂け目へと走っていく。次にローエンが軽快にジャンプしていった。
「……何だか僕たち、前よりバラバラじゃない?」
「いいじゃないか、それで。その方が私たちらしい。――さて、私も先に行くぞ」
ミラまでひょいっと何事もなかったかのように消えてしまった。やれやれ、とジュードが溜息を零す。銃がホルスターにちゃんと差さっているのを確認し、ジュード、と彼の名前を呼ぶ。
「早くしないと置いていかれるよ!」
「あっ、ちょっと! 待ってよ!」
飛び込んだ先は、世精ノ途とは真反対に暗い世界だった。ブロックのような地面が蠢いている。一歩でも足を踏み外したらどこまで落ちていくか解らない。そもそもここは精霊界のように狭間に出来た世界だ。
「――陛下の元に辿り着くのは諦めてもらおうか」
「ウィンガル……!?」
みるみるうちにウィンガルの髪が白くなり、彼は剣を構えた。どうしても引くつもりはないらしい。もう四象刃も彼が最後の一人となってしまった。そのプライドもあるのだろう。
「ヒディ ガイアス!」
七対一だというのに負ける気はさらさらないのか、ウィンガルが飛び上がる。エリーゼとローエン、そしてミラが詠唱を始め、私はアルヴィンと共鳴して挟み撃ちを狙う。
「僕たちも譲れないんだ! 鳳墜拳!」
「ドゥン!」
ジュードの拳を剣圧で弾き飛ばし、ウィンガルはそのままローエンに突っ込んでいこうとする。しかしレイアの棍がそれを邪魔し、彼の身体を宙に投げた。
「「ストロングバレット!」」
浮かんだ身体へ一直線、弾丸が空を切り裂いていく。ブロックの一つに着地したウィンガルは舌打ちを零して人間業とは思えないスピードで移動を始める。
「プルエヤウムグ! ブン ディンエドヤ ティエスティン ティアン ルウグアティムウムグス!」
『すごい量のマナだよー、エリーゼ!』
「でも負けません! 湧き出でよ!」
『ワキワキの手〜!』
「ネガティブゲイト!!」
ウィンガルのすぐ後ろに全てを飲む込むような球体が出現した。今度こそウィンガルを足止め出来ると思ったがそんなことはなく、彼は更にマナを放出して跳躍する。
「ブン ディンエドヤ! ティエスティン ティアン ルウガティムウムグ! ――ライトニングノヴァ!」
剣先から放たれた雷は一番近くにいたレイアに向かっていく。避け切れずに雷が彼女の足元で跳ねた。
「レイア!」
「大丈夫! このくらい……っ!」
棍を構え直し、最後列まで下がったレイアは回復のため詠唱を始める。入れ替わるようにミラとローエンが少し疲弊してきたウィンガル向けて精霊術を放った。
「空雨に満ちよ、」
「灼熱の煙霧!」
「「レイジングミスト!!」」
火を纏った水が彼の立っていたブロックを打ち砕く。そこにジュードが飛び込んでいき、渾身の力で獅子戦吼を叩き込んだ。
「ヒディグウヌン トゥン アースト……!」
悔しそうに告げながらも、ウィンガルはもうボロボロの身体だろうに剣を片手によろよろと立ち上がろうとした。
2015.06.27 柿村こけら
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