世界の果てでは雨が止む
89:破壊
「――じゃあ、行こう」
それからお互いに何かを言及する必要なんてなかった。差し出された手を取って二人で水の流れに向かってジャンプする。気の遠くなるような流れを経て、とん、と着地したとき、目の前に広がっていたのは世精ノ途に似て非なる世界だった。
世界の果てのようなこの場所にいたのは、ミュゼを従えたガイアスだけ。どうやら私とジュードが一着だったらしい。無事戻れたらマーボーカレーまんでも奢ってもらおう。
「来たか」
「ガイアス……僕たち、何でこうなるんだろうね」
「誰のせいでもない」
素っ気なくガイアスは答え、睨むようにジュードを見た。
「ありがとう、ガイアス」
「既に俺たちが交わす言葉に意味はない。ここまで来たからにはお前にも解っているはずだ」
「……うん、そうだよね」
ミュゼがジュードからガイアスを庇うように両手を広げた瞬間、空間がゆっくりと開き見覚えのある姿が這い出てきた。マクスウェルだ。
『ようやく見付けた。世精ノ途を外界から完全に切り離す。この二人は私に任せよ』
「私たちをここに閉じ込めようというのね!?」
マクスウェルは未だクルスニクの槍に捕われているはず。あれは恐らく思念体なのだろう。ミュゼは悔しそうに歯ぎしりをして手から仄暗い球体を放った。
「マクスウェル! マクスウェル! あなたはいつも! また奪うなんて許さないっ!」
ミュゼがマクスウェルの思念体を消し去り、ガイアスに再び近寄った。ガイアスはミュゼの体内から青白く光る刀剣を引き抜き、それで思い切り空間を斬る。ミュゼのナイフの巨大版といったところだろう。その先がどこかなんて解ってる。マクスウェルの本体がある場所だ。ガイアスたちが何をする気かなんてことも、全部解ってる。
「、急ごう!」
「うん!」
ミラたちもきっとすぐに来るだろう。私はジュードと二人、ガイアスを止めるため裂け目に飛び込んだ。
「マクスウェル!」
「馬鹿な! なぜ世精ノ果テまで来た!?」
「ここは僕たちに任せて! あなたの想いは決して無駄にはしない!」
チッ、とミュゼの舌打ちが世精ノ果テに響いた。人間離れしたガイアスと大精霊たるミュゼを相手取るのに二人とは。でもみんなが来るのを待つしかない。ぱしゅ、と小気味いい音を鳴らしてジュードと共鳴する。
「さあ、来い! 未来はどちらを選ぶか、見届けてやる!」
「僕たちは負けない! 絶対に!」
ガイアスの長刀に向かってジュードが跳躍した。その後ろでミュゼが詠唱を始める。とにかく持たせないと。ガイアスに足を振り上げるジュードを尻目に私も詠唱をスタートし、最奥のミュゼを睨む。
「踊れ爆岩――」
「させない! 永久凍土に堕ちる棺! インヴェルノ!! ジュードお願い!」
「きゃ……っ!? よくも!」
ミュゼの足元を無数の氷が固めていく。氷の上でジュードはくるりと回転して、それからガイアスに再び向き直った。
「輪舞旋風!」
「「――ブリザード!!」」
「きゃああああッ!!」
「ミュゼ! くっ……煌塵裂破!」
吹雪を斬り伏せてガイアスが駆ける。長い刃が地面スレスレのところを滑って、それから衝撃波を生み出した。バックステップで避けようとしたものの間に合わず自分の身体が吹っ飛んだ。
「!」
「あなたたち……っ、許さないわよ! 開孔、無窮に崩落する深淵! グラヴィティ!!」
ジュードは辛くもそれを避けたが、ミュゼの狙いはジュードよりも足元の氷を砕くことだったらしい。ふわりと浮かび上がった彼女はガイアスの元に舞い戻ると、指先から私とジュードに向かって精霊術を放つ。
「正面から正々堂々立ち向かってくるその意気やよし。だが、我らを相手にいつまでその気力が持つ?」
「そんなの……決まってるでしょ!」
「あなたたちを倒すまでだよ! ガイアス、ミュゼ!」
助走をつけて蹴りを叩き込もうとしたジュードをガイアスの刀が防ぐ。合わせて始めた詠唱はミュゼから放たれた一撃で打ち切る羽目になってしまった。
「あなたたち二人だけでガイアスと私に勝てる訳がないじゃない!」
嘲笑うミュゼの声を聞きながら私たちは立ち上がる。座って何て、倒れてなんていられない。だってまだ、みんなが来るんだから。情けない姿で待つ訳にはいかないんだ。
2015.06.27 柿村こけら
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